生真面目チョコレイト
番外編



「えーっ!お兄ちゃん彼女出来たんだーっ!おっめでとー!」
「い、いやあの、彼女というのは少々憚(はばか)られるのだが…」

――僕は幼少の契りより、人よりも頭が固く真面目過ぎだとよく周りに言われていた。
こんな僕を理解してくれる友人も数える程には出来た、高校生の冬。
僕には友人を通り越して、恋人という、大変恐れ入るとても大切な人が出来てしまったのだ。

「ねぇねぇお兄ちゃん」
「ん、何だ?」
「ABCどこまで進んだのっ?」
「ABC?ははっ、それはお前だって既に中学で習っているだろう?」
「え?」
「僕はもう高校生だからな、Zまで完璧だ!」
「お兄ちゃん…意味、分かってる?」



生真面目チョコレイト
       番外編




あのあと妹に何故か可哀相なものを見る目で見られ、少しばかりABCとやらが気になってしまった。ABCとは何なのだ?アルファベットの最初の三文字に過ぎないと思うのだが、妹の反応から察するにどうも違うようだし、先日購入した恋愛指南書にもそれらしい記述は見当たらない。



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「えっ!?ABC?」

今日は一緒にテスト勉強をしようということで、学校帰りに高橋君が僕の家に来ていた。その実高橋君が家に来るのは初めてのことで些(いささ)か緊張気味であった僕は、開口一番にABCについて尋ねてしまったのだ。

コトンと机に置いた冷たい麦茶の入ったグラスに伸ばしかけていた手がぴたりと止まって、何かを言いたそうな、なんというか微妙な面持ちでこちらをじっと見遣る高橋君。

「えっと…まじで?」
「な、何が?」
「ABC、知らないの?」
「む、むぅ……存じ上げない」

最後の方は蚊の鳴くようなか細い声でそう告げると、高橋君は意味深にニカッと笑ったかと思いきや、ずずずっとこちらににじり寄ってきた。

「なっ、たっ、高橋君…っ?!」
「……する?」

「する?」とは何なのだ「する?」とは。ABCは“する”ものなのか?……よく分からないが、きっと高橋君が教えてくれるのだろう。ならば、何も問題はない。高橋君は本当に優しい人だ。

小首を傾げながら徐々に距離を詰めてくる高橋君を上目に見つめ、おそるおそるコクリと頷いてみる。
すると、ぱぁっと周りに花が咲いたかのように表情を明るくした高橋君はどんどんどんどん僕に近付いてきて、仕舞いには殆ど鼻と鼻がくっついてしまいそうな程、至近距離まで詰め寄られていた。

こんなに近くで高橋君の顔を眺めるのは初めてかも知れない。至近距離で見ると高橋君の睫毛はこんなにも長かったのか。鼻もシュッとしてて、唇も薄いのだな……いやはや色眼鏡で見ていることには変わりないのだろうが、間違いなく端麗という言葉がぴったりだ。

思わずたじろぐ形で顎を引いた僕は、予想だにしていなかった高橋君の行動に、身が一瞬でカチコチに固まった。


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