02


ある日突然、新しい母親と、新しい弟が出来た。俺と同じ歳だっていうのに、誕生月が一ヶ月違うだけで『弟』扱いされるなんて、後継ぎ問題とかがもしあったらそんなの納得出来ないだろうなんて思ったこともあった。

俺達は似ていた。中性的な容姿も、少しばかり内向的な性格も、背の高さだって俺が少し高いくらいなもので、事情を知らない人に「俺達兄弟なんです」と言っても何一つ疑問に思われないくらいには、普通に似ていると思う。

二年前のあの時、突然増えた家族に戸惑っていた弟に手を差し伸ばすことを決めたのは、会ってすぐのことだった。

――そう、義理の弟に恋をした、二年前のあの日。





「理玖ー、課題やった?」
「あ、まだやってない。将和は?」
「まだ。……一緒、やる?」

俺の日課。それは毎晩理玖に課題の誘いをすることだ。別に課題なんて一人で出来ることだし、ましてや一つ屋根の下に住まう者同士がわざわざ同じ部屋で一緒にやる必要なんてないんだけれど、こんな理由でもないと理玖と二人きりになんてなれないから。……大義名分が欲しいだけなんだ、俺は。

こう毎日のように理玖に誘いをかけていて断られたことなどないのに、もしかしたら断られてしまうかもという不安が消えないのは、やっぱり俺が理玖に対して一方的な愛情を向けているからだろうか。

おそるおそる理玖の顔を見つめれば、俺の質問にコクリと頭を縦に振ってそそくさと準備をし始めていた。…よかった、今日も断られなくて。

「行こっか」
「うん」

プリントと筆箱を手に持った理玖が「準備できたよ」とばかりにこちらに視線を送ったのを見計らいそう言って、すたすたと自分の部屋まで歩く。

理玖はプリントと筆箱を両手で大事そうに抱え、ゆっくりと俺の数歩後ろを歩く。多分今ここで俺が急に立ち止まったりしたら、絶対俺の背中にぶつかってくるだろうなぁなんて考えて少しニヤけながら、自室部屋のドアを開く。

理玖はちょっと抜けてて、でもそんなところもたまらなく可愛くて。“弟”だからとか関係なく、俺はこいつを一生守っていきたいと思っている。

兄弟愛と呼ぶにはあまりにも歪みすぎている愛情を俺が抱いていることに、理玖は気付いているんだろうか。
今から理玖と二人きりになれるという事実に、これでもかってくらいテンションがだだ上がりしているこんな俺に、気付いているんだろうか。





規則的な動きで首を振る扇風機の風が心地好い。今日の気温はとても過ごしやすくて、こんな日は課題も捗(はかど)るというものだ。

課題が一段落するまでは意識を理玖に向けないようにと自分ルール的に決めていた俺は、さっきからびしばしと自分に向けられているであろう理玖からの視線を受け流そうかしまいか、シャーペンを動かすフリをしながらずっとそんなことを考えていた。

しかし、あまりにもガッツリ飛んでくる理玖からの眼差しに俺はやっぱり堪えられそうもなく、手を止めて理玖の様子を伺うように視線を合わせることにした。

「…どした?」
「えっ、な、何でもないよ」

あ、やばい。この理玖の反応、可愛い。
視線がかち合った瞬間に少しばかり見開くように大きくなった目はそのあとすぐに逸らされてしまったけれど、俯いた理玖の顔はほんのり赤く染まっているように見える。

そのままじっと理玖を観察していると、理玖は何故か左手で胸を押さえながらプリントとにらめっこしていて、でも文字を追っている様子もシャーペンが動いてる様子もない。

「……なぁ、」
「っん、ん?」
「手、止まってるよ?」
「うっ…ん、何だか集中出来なくて…」
「そっか」

集中出来ないんだ?ふーん。
さっきから俺も頭の中理玖のことでいっぱいで、全然集中出来てないんだけど。

何でもない風を装いながら視線をプリントに戻すと、ふと自分のプリントの先にある理玖の白くて細い手が視界に入った。男の手とは思えないくらいにほっそりとした長い指に、手首だって簡単に折れてしまいそうに細くて。まぁ俺の手もそんなにごつい方ではないのだけど、やっぱり理玖の手、好きだ。

――そう思っていたら、無意識のうちに手が理玖の手の甲へと伸びていた。

「っ!なっ、何…?」
「ん、いや、なんか理玖の手細いなぁと思って」
「まっ、将和もたいして変わらないじゃない…」

想い人の手は暖かくて、重なった手と手からぼわっと火でもあがるみたいに、その部分が熱を持つ。
理玖があまりにもしどろもどろになってる姿を見て、思わず顔がにやけてしまいそうになるのを隠しながら、これ以上触れていたら何か箍(たが)が外れてしまいそうな気がして、さっと手を元に戻す。

左の手の平にまだ理玖の温もりが残ってるみたいで、ちょっと気恥ずかしいような気持ちになりながらチラリと理玖を覗き見れば、理玖も理玖でまだ自分の右手をじっと見つめてたりして。

「…理玖?」
「なっ、何でもない、よ」

何その反応。俺、期待していいの?
血は繋がっていないとはいえ俺達はれっきとした兄弟で、ましてや男同士。こんな不毛な恋もあるものかと思っていたけれど、これは案外そうでもない……のかも知れない。

「そう?」

そう言ってテーブルに肘を付きじっと理玖を見つめてみる。交わっていたはずの俺と理玖の視線はやっぱり向こうから逸らされて、理玖は恥ずかしそうに下を向いてしまう。サラリと揺れた前髪が綺麗だなとか考えていたら、髪の間から少しだけ見えた耳の先まで赤くなってることに気付いた。

「理玖、耳赤いよ?」

そう言って理玖の耳に手をやれば、「ひゃっ」と小さく声を上げてそこを隠すように手で覆う理玖。
あぁもう、こんな反応、可愛いすぎる。

「なっ、何するの…」

真っ赤な顔でそう言う理玖がたまらなく愛おしくて、知らずに口角が上がっていた。更にいえば、「…可愛い」なんて、口に出てしまっていたらしい。

「え?」

幸い本人には聞き取れていなかったようで心から安心したけど。

「あ、いや、何でもない」
「何て言ったの、将和?」
「や、何でもないよ」

多分今俺顔赤いな。首を揺らしながらそう思い、またふっと笑みがこぼれた。




「将和」
「…理玖」


――次の言葉は、出していいのだろうか。





---fin---




168様よりリクエスト頂いた「同い年義兄弟」です。
同じ場面で両サイドで書かせていただきました。お互い好き合ってる時のこの雰囲気がとてつもなくすきだったりします(〃ω〃)
168様、リクエストありがとうございました!




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