08




「ちょ…おま…え…え…や…え?」

「ふふ…っははは!」


俺のあまりの挙動不審具合を見たからなのか、急に和哉は腹を抱えて笑い出した。

自分でも身勝手な話だと今更ながら思うが俺は、てっきり俺が男役で和哉がその…女役なんだとばっかり思っていた。
でもよく考えれば、和哉だって男。童貞より先に貞操を捧げる事になるなんて殆どの男が願い下げだろう。勿論俺だって出来れば…その、和哉に挿れたい。うん、出来れば、な。

でも和哉が「絶対に嫌!」だと言うのなら、涙を飲んで俺がそっち側でもいけない事もないような気もしないでもないような…って!俺は一人でぐるぐると考え込んでいた事を思い出し、その答えの出ない問題から目を遠ざけるように和哉から視線を逸らした。


「あのね、翔」


俺の一連の動作を見届けた和哉が、徐に口を開く。


「僕はね、もう、それこそ翔と付き合った時から覚悟なんて決まってた」


俺の目をじっと見詰め、和哉はとても柔らかい表情でこう続けた。


「いやちょっと違うかな。…僕はね、どっちがどっちかなんて問題じゃないんだよ。だって、こんなに大好きな翔と一緒に居れて、抱きしめ合ったり、キスとか、その先とかさ、こうやって二人で先に進められる事が僕は嬉しいんだ」

「和哉…」


嗚呼、何て俺は馬鹿だったのだろう。目先の事しか考えずに、これじゃあただのがっついてる獣じゃないか。
和哉はちゃんと分かってたんだな。「えっち」って、ただお互いが気持ち良くなれれば良いってだけのものじゃないって事。愛を表現する方法の一つなんだって事を。


「っね、だから僕は、翔になら抱かれても良いんだよ。さっきのはちょっと翔をからかいたくなっただけだから」

「和哉…。俺、俺…」

「どうしたの?…泣いて、る?」


いつの間にか俺の涙腺は緩くなっていたらしい。見る間に目頭が熱くなって、直ぐにたらりと雫が垂れた。何か…俺、女々しいな。和哉の方が何倍も男前だ。


「和哉、俺、大事にする。本っ当ーにお前の事、一生守るから…!」


俺の言葉に和哉はうんうんと小さく頷き、そっと俺を安心させるように抱きしめてくれた。背中に腕を廻してぎゅっと抱きしめ返すと、俺の心は何ともいえない安堵感と幸せな気持ちで満たされていくのを感じた。和哉、愛してるぞこのやろう。


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