06




「いやぁでも、一時はどうなる事かと思ったねぇ!」

「あ、あぁ…」


ふふふ、と和哉が悪戯に笑いながら差し出してきたコーヒーを受け取り、ミルクを入れてから一口味わう。好物の味なはずなのに、あまり味がしないのは何故だろう。


「…ね、緊張してるでしょ?」

「あ、あぁ…」


――何故緊張しているか。それは此処が、さっきまで俺達がいた学校の図書室ではなく、和哉の家でも俺ん家でもなく、ホ……テルだからである。つか何で和哉はそんなリラックスしてんだよ。凄いなお前。


「僕も緊張してるよ。でも、それより何より、嬉しいから」


じっと俺の目を見据えて、自分の胸に手を当てながらそう言う和哉の顔は、覚悟が決まったかのような、何というか、ふっきれた感じの印象を受けた。

その言葉が嬉しくて、思わず和哉を引き寄せて抱きしめると、「だあぁいすき」なんて返してくる。あぁ、俺も大好きだ、和哉。

と、ここで何故俺達が今、こんな所でコーヒーなんて飲んでいるのかというと…


―――約一時間前。


身なりを整え、和哉のシャツのボタンをとめてあげていたそんな時。ふと耳を澄ますと遠くから足音らしき音が聞こえて来た。
俺達はよしきたとばかりに図書室のドアの前まで走り、ドアをドンドンと強く叩きながら「たぁすけてくれえぇ」とホラー映画並みの大声で叫び続けたのだ。


「全く。君達は」

「いやいや、ろくに中も確認しないで勝手に鍵を閉められたんだから、俺達に非は無いっすよ」

「ま、とにかく早く帰りなさい」


警備員のおっさんに背中を押され、半ば苛立ちを覚えつつも図書室から出た俺達は、もう真っ暗になった夜道をぽつぽつと歩いていた。
すると和哉が徐にこちらに顔を向け、何か悪い事でも考えていそうな含み笑いで俺に一つの建物を指差した、という訳だ。


「ラブホテルって訳じゃないし、僕達制服だけど…大丈夫でしょ!」


いやいや大丈夫じゃないだろ…と思っていたのだが、案外大丈夫だったと。本当、和哉の積極性にはほとほと感心する。
意気揚々とフロントのお姉さんに「事情」という名の嘘をペラペラ喋った和哉は、難無く部屋に案内して貰える事になったのだ。


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