03




「…俺はお兄ちゃん失格だな…」

「え?なんで?」


プールから一旦出た俺達は、その辺に陣取ったビニールシートの上でお昼ご飯を食べていた。


「あの、ゆかちゃん?にあんな言い方しちゃって…」

「ううん。僕、嬉しかった」

「…え?」

「なんかねぇー、にぃが、僕の事好きって伝わったから!嬉しかったの!」


えへへ、と笑う優を抱きしめたかったが、必死に堪えた。
良かった…。優に嫌われなくて…。


「あのさ…」

「なぁに、にぃ?」

「そそそその…ゆゆゆゆゆかちゃんとはどのような…?」


一番不安に思っていた事を聞いてしまった。しかも凄い吃(ども)り様。


「あははっ!にぃ、もしかして心配してるの?」

「そ、そりゃそうだろ…何かゆかちゃん、優の事…好き…そうな感じだった…し…」

「…へ?そんなことないよっ!ゆかちゃんが好きなのはたかし君だもん!」

「あ…え…そ、そうなのか?」

「うん!ゆかちゃんはみんなにあんな感じだから」

「あぁ…そ、そっか…」

「不安にさせちゃった?ごめんね?」


優はそう言って、手を伸ばして俺の頭をよしよしと撫でてくれた。
俺はいつの間にか涙腺が緩んでいたらしく、目に大粒の涙が溜まっていた事に気付いて急いで目を擦ってごまかした。


「…僕は、にぃだけなのに」


優がそんな嬉しい事を言ってくれるもんだから、我慢ならなくなってぎゅっと優を抱きしめた。勿論、近くに誰も居ない事を確かめてから。


「にぃ…だぁいすき」


身体を離すと、照れたようにふにゃっと笑った優が、こちらを見つめていた。あぁ、キスしたい…


――チュ。


…え。


優は俺の顔を両手で持って、あろうことか唇に軽くキスをしてくれた。嬉しい、うん、嬉しいんだけどな優?


「優!周りにバレちゃうだろ!」

「へへ…いいじゃないっ」

「ちょ…全く…」

「それよりにぃ!泳ぎ行こーよー!」


また手を引っ張られ、プールに向かった。俺の顔は緩みっ放しだ。


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