02
善は急げという事で、次の日の放課後。
俺は制服のボタンを一番上まで留めズボンもしっかり履いて、普段履き潰しているローファーもきちんと履いて和哉の家の前に立っていた。ちょ、めちゃくちゃ緊張するんですけど。
幼なじみの親友として、和哉の両親とは顔見知りだし、たまに外で会うと普通に喋ったりもする。でも今日は、恋人として挨拶しに行くんだ。いつもとは訳が違う。
―ピンポーン
「はーい!あ、翔!上がってー!」
いつもとさほど変わらないテンションで家に迎える和哉。
「お、お邪魔します…」
ローファーを揃えて玄関に上がる。そのままリビングに通されると、和哉のお母さんがソファーに座っていた。
「あらまぁ!翔君じゃない!久しぶりねー!元気してた?」
「あ、こんにちは!お邪魔します…」
「あらあらどうしたの?なんか今日はキチッとしちゃってるのねぇ?」
「あ、あはは…」
俺の体内からは汗が噴き出すように出ている。あぁ、緊張する、どうしよう。
「母さん、話しがあるんだけどっ!」
徐(おもむろ)に和哉が母親の座っているソファーの向かい側に正座をしたので、俺も隣に正座する。
「あらあらぁ!どうしたのよ二人共〜!お腹でも空いたの?」
「…母さん!」
「はいはい?」
「こちら、今僕が付き合ってる黒川翔君です!」
「かかか和哉君とお付き合いささささせて戴いてます!」
「…」
噛み噛みで喋り、深く頭を下げる。対して和哉は頭を下げる訳でもなく、のほほんと笑っている。
「…」
無言が続く。やべぇ、怒られるか…?そりゃそうだよな。殴られたって何も言えない。もしかしたらもう友達としても付き合うな、とか言われるかも…いや、それが当たり前の反応だ。
ビクビクしながら少し頭を上げて、和哉のお母さんを見上げる。
「あ、ら、ま、ぁ〜!」
「…?」
「何だか最近、和哉の様子がいつもと違うと思ってたのよぉ〜!もしかして彼女かなとは思ってたけれど、まさか彼氏だったとはねぇ〜!あははははっ」
随分嬉々とした様子で話し出す。あはははっ、って…。和哉の母さんは確かに同年代の親より若いし、お母さんって感じがしないとは思っていた。でもまさか、こんなりすんなり受け入れられるとは思っていなかった。
「翔君ならお母さんも安心だわ!和哉と仲良くしてやってね?」
お母さんはこちらに近付いてくると、そう言ってバンバン背中を叩いてきた。
「あ…は、はい!」
終始ニコニコしながら俺にそう言うと、今度は和哉に向かって、
「でも和哉がちゃんと紹介してくれて良かったわぁ!お母さん安心しちゃった!あ、でもまだお父さんには荷が重いかも知れないわねぇ…」
ふふふ、と笑いながら話す。
「父さんにはまだ秘密にしといた方が良いの?」
「そうねぇ…時期を見てお話しましょうか。…それと、二人共」
「はいっ!」「ん?」
「お母さんは和哉が誰と付き合ったとしても、和哉がそれで幸せなら何も言わないわ。和哉の顔を見れば幸せかそうじゃないかなんて、直ぐに分かりますから。で、も!世間様はそうは見てくれません。くれぐれもその辺りは自分達でしっかりやっていきなさいね?」
「はいっ!」「うんっ!」
「良いお返事。分かってるなら、もうお母さんから何も言う事は無いわ」
「あ、ああの…、あ、ありがとうございます!かかかかか和哉君を、幸せにします!」
さっきから自分はびっくりする位噛みまくりだ。
「ふふっ…そうね。これからも宜しくね、翔君」
「はははいっ!宜しくお願い致します!!」
スッと肩の荷が降りた気がした。良かった。本当に良かった。…泣きそうだ。
「じゃ、母さん。ちょっと翔に部屋に寄って貰うから!ほら、行くよっ、翔!」
「お、おう。じゃ、失礼します!」
「はいはい。もう〜…。翔君そんなに緊張しなくて良いのよ?」
「ありがとうございます!」
緩んだ涙腺を引き締めながら、ペコリと和哉の母さんに頭を下げて、和哉に連れられ階段を上る。
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