08




恐る恐る振り向くと、美紀ちゃんが教室のドアのところで立ち止まり、こちらを見ていた。
俺と目が合うと、顔を赤く染めて俯いた。


「あ〜…。彼女じゃねぇから」

そう言って俺は、教室のドアに向かう。
なんかこういうのって照れ臭いっていうか、凄く嫌だ。

皆に変に囃し立てられて…和哉も見てるのに。
あぁ、見られたくなかった。気がする。

俺はドアに手をかけて美紀ちゃんの目の前に立ち、少しぶっきらぼうに

「…何?」

と言うと彼女は空気を読めて無かった事に気付いたのか、申し訳なさそうな顔をして

「あっ、先輩、メールしたんですけど、返事来なかったから…」

「あぁ、悪い。携帯見てなかった。どした?」

「今日、良かったら一緒に帰りませんか?」

「う、うーん…ごめん、美紀ちゃん。今日は、先約があんだよね。」

「はい…そうですよね…私こそ急に、すいませんでしたっ!」

美紀ちゃんはペコッと頭を下げて、恥ずかしそうにタッタッと掛けて行った。

悪いことしたな。
実は美紀ちゃんからメールが来てる事は知ってた。断りのメール入れないと、とは思ってたんだけど、なんつぅか、めんどくさくてシカトしちゃってた。

でもまさか教室まで来るなんて…やけに積極的な女の子だな。
や、元々俺が悪いんだけど。


「あっれ〜?彼女の誘い断っちゃって良いの〜?」

俺が先程居た席まで戻ると、やっぱり皆が口々にそう言ってくる。

「だぁからっ!」

俺は少し苛ついていた。
彼女に悪い事しちゃった、っていう罪悪感と、和哉に隠し事してたのが見事にばれた罪悪感とで、少し声をあげてしまった。


「…でも…彼女、なんでしょ?」

ぼそっと和哉が俺にそう言う。
この話題になってからあまり会話に入ってこなかった和哉が、多分初めて口にした言葉だった。

「違うって!」

「もう、ちゃんと言ってくれれば良かったのにさ〜。小学校からの仲なのに!つれない、翔。」

「ちょ、マジ、和哉もみんなも、マジで違うから!!つか俺、他に好きな奴いるし!」

あ、言っちゃった。
ついポロリと出た言葉という感じだった。


「「えー!」」


みんなが口を揃えて、あんな可愛い後輩を差し置いてだとか、翔は他にどんな隠し玉を持ってるんだとか、ごにょごにょ言っていたが、俺は和哉が黙って俺を見つめているのがとても気になった。


「ま、良いだろ!とりあえず俺は合コンはパスすっから!じゃ、帰ろうぜ、和哉」

「あっ、うん」

和哉はみんなに手を振った後、何かハッとした顔で俺の机の前まで戻ると、机の中を探った。


「しょーうー?」

和哉の手には、今日和哉の家でやる予定の問題集があった。
やっぱり、ぬかりないな、和哉は。
つか俺は問題集なんてすっかり忘れてたよ。


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