2周年記念



和哉の様子がヘンだ。
それに気付いたのは、文化祭準備という名の半日授業で午後からは盛大にサボれる最高の日取りであるはずの今日、まさに今からサボってやるぞー!と意気込んでいた時のことだった。

元々和哉は真面目な奴だから、文化祭準備なんて放っといてサボる気満々の俺に対して憤りの気持ちを抱えている可能性も無くは無いだろう。つか完璧に怒られる。いつもなら。

だけど今日の和哉は確実に何かがおかしい。さっきから文化祭の準備でガヤガヤとざわめきだしている教室の中、一人自席から動かずにぼーっと窓の外を眺めているのだ。

いや、それだけなら別にちょっと物思いにふけてんのかな位にしか思わないけど、さっきから名前呼んでんのに気付かねーし、隣のイスを陣取って肘をつきながらじーっと穴が開く程視線を浴びせかけてるってのに、本当意識どっかに持ってかれてんじゃないかってくらい無反応だからな。

「……。和哉!」

少し声を張り上げて目の前の無気力な恋人の肩を軽く押す。
ビクッと分かりやすく肩を揺らしてからこちらに向けられた和哉の瞳は……不安気に揺れているように見えた。



俺と親友と 番外編



「なぁ、なんでさっきから機嫌悪いの」
「だから悪くないってば……」

目下、文化祭の準備真っ最中だ。
あれから結局サボろうとした俺の愚行は遂行されることなく、和哉のカミナリを存分に落とされた俺は渋々クラス展示の看板作りのため、ペンキのフタを開けていた。

「なんか素っ気ないじゃん。何、どした?」
「う〜………なっ、なんでもないよ」

怪しい。こいつ隠し事下手過ぎる。
分かりやすく動揺して目を泳がせる和哉を半眼がちに覗き込む。
ぱっと一瞬合ったはずの視線が、案の定すぐに逸らされて……思わず黒い感情が芽生えてしまった。

何があったか知んねぇけど隠すなよ。言えよ。最初に隠し事すんなっつってたのは和哉だろ。なに慣れない嘘とか付いてんだ。バレバレ過ぎて…腹立つんだよ。

「あ〜俺便所。な、付き合って」

けだるげに立ち上がって後ろ髪をグシャグシャにしながら、和哉に冷たい視線を投げた。

「え……う、うん…」

断る理由が見付けられなかったのか気が進まなそうにゆっくり和哉が立ち上がるのを後ろに感じ取りながら、教室を後にした。



* * *



「あれ、翔トイレなんじゃ…」
「んなわけないだろ」

俺は便所を素通りして別校舎の廊下の端で足を止めた。
周りにはバタバタと準備に勤しむ同学年の奴らが右往左往している。よ!と手を振ったりお前らサボんなよ!と茶々を入れられたりはするものの、誰も俺と和哉の会話内容なんて気にしない。だから遇えてココを選んだ。ココなら和哉も体裁を気にして変なこと口走ったりもしないだろうし。

「っで、さっきから和哉がなーんか変な理由はなんなの」
「…だから……変じゃ「そうやってずっと秘密にする気か?」う……」

ちょっと強気で攻めてみた。
壁に背中を預けて腕を組みながら眉を寄せる。
流石の和哉も漸く話してくれる気になったのか、暫くの沈黙のあとに「…翔も本当のこと言ってね?」と話し始めた。

「?あぁ、もちろん」

何を問われているのか分かんなかったけど、俺は嘘なんか付くつもりはないからとりあえず頷いておいた。



「……あのさ、翔って、まだ…あの後輩の子?と連絡とかとってるの?」
「はあ?」

急になんだ。俺は盛大にため息を吐いて、とってねぇよとだけ答えた。

「……本当?」
「つかアドレスも消したよ。メールする理由ねぇし、ちゃんと断ったって言わなかった?」

話題に上がっている後輩の子というのは、まだ俺と和哉が付き合う前に俺に告白をしてくれた一年生の女の子のことだ。
告られてアドレス交換して最初は友達からなんつってたんだけど、その後すぐに和哉とあんなことになって……彼女には『大切な人が出来たからごめん』とハッキリ断った。それは和哉にも後々ちゃんと説明したはずなんだけど。俺もしかして信用ない?

「あー…う、ん。聞いた。んだけど、さっき……」

歯切れ悪くじわじわと俯きだす和哉を軽く睨んだ。

「さっき、なんだよ」
「里中先生のとこ行った時にあの子と友達が廊下で喋ってて…その、なんか翔のこと、まだ好きみたいなこと…言っ……」

急に和哉の目にぶわっと涙が浮かんで、そこで言葉が途切れた。

つか。
え、なに。和哉の一連のあの態度はそれが原因だったわけか?

「っで…、なん…なんか…、黒川先輩手とか振ってくれ……し、脈アリかもよ……とか話しでで…っ…も"、もしかしたら"…翔も…俺、なんかじゃ……て……女の……ッ…」

なんだか無性に、目の前のこの泣きじゃくる可愛い恋人を抱きしめたい衝動に駆られる。
だって……俺が原因で、あんな生気の無い顔して、あんなに元気無かったんだって分かったから。
和哉が本当に俺のことを好きでいてくれて、嫉妬したり、不安に思ったり、してくれたんだって分かったから。
つか本っ当……可愛すぎだろ…!

「わ、ちょ、泣くな…!」
「ごめ"…」

廊下を行き交う奴らからの視線が痛い。和哉が目を擦りながら肩を震わせるのを俺が宥めているこの図は、周りからはどんな風に映っているのだろう。
くそ、なんでこんな場所選んだんだ俺は。

「あーもう、場所変えんぞ!」



* * *



――キィ、バタン、ガチャ。

旧校舎にある便所の最奥の個室に和哉を押し込んで、後ろ手にカギを閉める。

「…和哉、不安にさせてごめんな。俺はお前だけが好きだよ、…大好きだ」
「し、翔ぉ……ッ…」

きつく抱きしめて、和哉の髪にキスをして、優しく囁いてやる。
さっき俺らが居た廊下からここまで歩く時間で引っ込みかけていた和哉の涙は、すぐに逆流して先程よりも速くその瞳を濡らした。

「あのな、俺もそこまで冷酷な人間じゃないから、さ、…購買とかであの子と会って会釈されたら手くらいは振ってたと思う」
「う、ん"…」
「でも全然他意はないし、いっそあの子にお前を紹介してスッパリ諦めてもらったっていいんだよ、俺は」
「う"……しょお……っ」

ヒクヒクと俺の胸の中でわななく和哉がひどく愛おしい。安心させるように優しく背中を抱き包んで、震えている頭に再度口付けた。

「ごめ……ごめんね、翔……僕の心が狭かったんだ…」
「や、いいんだよっつか全然…むしろ嬉しかったし。俺が嫌だったのは最初お前がそれを隠そうとしてたことだかんな?」

うん、ごめんね、と上げられた顔はくしゃりと歪んで、目まで赤くなっていて。
たまらず俺はまだ何か言おうと開かれたその唇を塞いだ。

「んむっ…んっ…ん」
「……っ、もう謝んな、つか泣くな。教室戻れなくなんぞ」

指で和哉の頬に垂れた雫をそっと拭って、目を細めて笑う。

「うん…っ。翔、トイレ長すぎって言われちゃうもんね」
「げ。そーいやそんなこと言って出てったな……」

へにゃりと和哉が笑って、俺がわざとらしくうわぁと肩を落としてみせる。
そして二人して目を合わせて、クスクスと小さく笑い合った。





「あ、もう教室戻らないと。さっき翔に散々怒ったのに僕がサボるわけにはいかないもんねっ」
「えぇ〜いいじゃん。いっそさっき怒ったのとかナシでさ、せっかくだし俺はお前とフケていちゃいちゃしたいんだけどな〜…」
「…っ。翔!も〜…じ、じゃあ……今回だけ、ね…?」

恥ずかしそうに上目で見つめてくる恋人をこれでもかって程強く抱きしめてから、俺達は屋上へと足を進めることに決めた。




「屋上って立入禁止じゃ」
「和哉、じゃあ教室戻るか?」
「〜…っ。もっ、戻んない!」

――あぁもう、顔がにやけてたまんねぇ。

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