利用、されてる。
 そんなこと、体を触られた時点でなんとなくわかっていた。でもやっぱり信じたくないところもあって、戸惑いながらもトキヤに問い掛ける。
「一応、会ってる間は付き合ってる。それに体触られたってだけで利用されてるって断言できるか?」

 ――そうだ。いくら利用すると言ったって那月でも男の体なんて触れないだろう。
 自分で利用されてるとなんとなくわかっているのにこんなことを質問するとか、変なの。

「まず、会ってる間だけ付き合うってことがおかしいです。何様ですかって感じですね」
「……それは、ほら、なんかすげえ謝ってきたしよ、俺に申し訳ないと思ってせめての情けとか」
「それだけで普通、体まで触りますか」
「…………それは、」
 そこでトキヤに質問される。
 ――もし、あなたの大切な人に告白される。でもあなたには愛する人がいる。さて、どうする。と。
 俺は即答した。
 きっぱり後腐れなく断ると。だって、本当に大切な人なら引きずらないように、少しの可能性すら見出だせないようにするのが一番だろ。
 そっちのほうが早く俺のことを忘れてすぐ新しい恋に出会えるから。
「……翔、自分の言ってることわかってますか。つまり」
「つまり、大切なら、手え出したりしねえってことだろ」
 自分で言って自分で確信に移してしまうなんて。
 そうだ。大切なら可能性を持たせるような、引きずらせるようなことはしない。
 ぼんやりと感じていた違和感が形になった。那月に、体目当てで利用されていることに。
 ――それでも俺は幸せを感じてしまっている。
 でもわかる。このままいってもずっと幸せでいられるはずはなく、どんどん辛くなっていくことを。
 それをわかった上で俺は那月とまた会うのか。そんなの、おかしい。
 ――でもきっと、
「わかってるけど、俺は那月に会うと思う」
「……やめておいたほうがいいと思います」
「うん。アドバイスありがとな。あと本も。多分明日返すわ」
 俺は立ち上がってトキヤに軽く手を振った。小さく、名前を呼ぶ声が聞こえたけど聞こえないふりをして部屋を出る。
 きっと、誰に話したってやめろと言われるだろう。当然だ。

 でも那月は本と違うところがある。
 この本で男は、彼女にアレしてくれだのこうしてくれだの、散々してほしいことだけを強制していたけど那月は一度だって強制してこなかった。まず俺のしたいことを聞いて、全部俺に合わせていた。
 利用されてるとわかってるのにそういう部分があるから、期待してしまう。まだ、可能性がある気がしてしまう。
 でもこのことをトキヤに話さなかったのは、否定されるとわかっていたから。

「……あ、そういえば」
 そこでふと思い出す。那月にメールすると言ったことを。でもメアドどころか四ノ宮那月自体をアドレス帳から削除してしまった今、連絡手段はなくなっていた。
 ――真斗に那月のデータ送ってもらうようにメールしよう。レンや音也だといろいろ聞いてきそうだけど真斗ならなにも言わなさそうだから。

 そうしてメールを送ってから、返信はすぐにきた。
 ちょうど携帯を見ていたのだろうか。メールを開くと那月のデータが添付されていた。
 真斗にありがとうと一言送って、那月へのメール作成画面を開く。
 ――なんて打てばいいんだ。
 今日はありがとう? いや、それはおかしい。でもそれ以外に浮かばない。ボキャブラリーのなさに舌打ちをする。
 頭が沸きそうになって、あー、と声を上げてベッドに寝転がった。
「……これでいっか」
 もう考えれば考えるほどわからなくなる気がする。結局、最初に浮かんだ今日はありがとう。を絵文字も顔文字もなしにそのまま送った。
「はあー……」
 変な感じ。部屋が一緒だから滅多にメールすることなんてなかった。聞きたいことがあればすぐ聞けた。話したかったら、すぐ話せた。
 それがどんな返信がくるかでドキドキしてるなんて、ああ、変な感じだ。
 退学って言ってもこの学園は一年しかない。今は九月。学園生活はあと約半年だ。
 今まで同じ部屋だったのが半年。そして半年バラバラになるくらいなんの苦にもならないだろう。
 ――それなのに、ポッカリ穴が空いたように感じてしまっている俺はどれだけわがままなんだ。
「あ……」

 そして、返信はきた。

 ――今日は会えて良かったです。翔ちゃんとても、可愛かったです。ごめんなさい。

 きゅうう、胸が締め付けられる。謝るくらいなら断るなっての。
 なんでこんな思いしないといけないんだ。那月に対して、こんなに切なくならないといけないんだ。
 さっさと関係を切ったほうが楽になる。でも、返信してしまった。

 ――次はいつ会える? お前が空いてる日に、合わせるから。
 返信はすぐに来た。
 ――毎週木曜日だったら空いてます。

 じゃあ、木曜日に会おうよ。



 そうして決まった。毎週木曜日だけ、那月は俺の彼氏になってくれることに。
 時間は夜。昼や夕方は誰かに見つかる可能性があるから夜に今日会った場所で会うということになった。
 今日が木曜日だから次会えるのは来週。
 ――遠い。
 毎日毎日一緒にいたから、少し離れるだけでもとんでもなく寂しい気がした。







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