02

島国の中心から遥か北東に位置する地、奥州。
その中心となる米沢城に、一人の男が書物や書状を抱えて廊下を歩いていた。男の双眸は鋭く、左頬に走る傷痕から、まさに"泣く子も黙る"恐面である。
男はとある障子の前へ腰を下ろし、口を開く。


「失礼致します。書物をお持ちしました」


凛と廊下に響いた言葉に、中から返ってくる言葉は無い。男は眉間に皺を寄せて障子に手を掛け、失礼、とまた一言告げて勢いよく開いた。


「!」


部屋の主は居らず、もぬけの殻と化していた。
積み上げた書物や書状で乱雑になっている机の上から、"厠に行ってきます"と書かれた和紙が、障子から入った風によってかさりと音を立てた。





――――――


その城下町から程近い山道に、馬を走らせる青年の姿があった。
白い着物に鈍色の袴を履き、腰に携えた脇差しの柄を撫でながら、背にある少しばかり小さくなった城を振り返る。
もうそろそろ気付く頃合いだな、と青年は口角をゆるりと上げた。
厠なんて勿論嘘であり、此処最近は溜まりに溜まっている政務を片付ける為、部屋に缶詰状態にされていたのだ。だが只の缶詰状態ではなく、逃亡防止として恐ろしい重鎮の監視付きである。たまに覗きに来る(笑いに来る)従兄弟に当たり散らしながら、苦手な政務をこなしていたのだが、流石に我慢の限界を越えたようで、遂に息抜きという名の逃亡を試みたのだ。
今頃、頭を抱えているであろう部下を思い浮かべながら、悪戯が成功した童子のように満足気にほくそ笑む。


「Sorry,小十郎。帰ったら終わらせてやるから、今は見逃してくれよ」


そう呟いて、林の中へと馬を走らせた。





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