21

縁側の廊下で、梵天丸をお腹に乗せたまま、ごろりと寝転がる。悠は暇を持て余していた。
少し前――まだ慶次が城に居た頃は、政宗に呼ばれて未来の事や英語について話したり、慶次や小十郎と稽古したり、成実と城を走り回っていたりと賑やかな毎日だった。
だが、このところ何やら忙しいようで、最近では政宗を見掛ける事はあっても、話す事は数える程になり、成実ともたまに話す程であった。
その頃から、忍に見張られるようになった。庭を散歩をしていても少し塀に近付けば、止められる始末。そして、この一週間くらい前から庭にすら出る事すらも禁止になってしまったのである。これも理由は分からず、喜多に聞いても答えてはくれなかった。
なんか寂しいな…と悠はぼんやり思いながら、愛猫の梵天丸を抱き寄せて瞼を閉じる。すると、梵天丸は何かに気付いたように一鳴きした。


「おい」


低い声が降ってきて、ぱちりと目を開く。声の方へと見上げれば、農民のような格好をした小十郎が立っている。
悠は慌てて起き上がると、小十郎は軽く息を吐いた。


「少し待ってろ」
「……え」


そう言い残すと踵を返して、小十郎は去って行く。悠は訳が分からず、そのまま縁側で待っていると、喜多が現れて着替えさせられる。先程の小十郎と似たような格好をさせられ、喜多は頑張ってねとにこりと笑って仕事へ戻っていく。すると、入れ違うように小十郎が来て、ついて来いと歩き始めた。
何も言葉を交わす事もなくついて行けば、城の門の前へ来る。柄の悪い門番四人は、小十郎と悠の二人を見るや否や頭を下げた。


「お疲れ様っス!」
「お前等、気を抜くんじゃねぇぞ」
「勿論スよ!」
「任せて下せえ!」
「行ってらっしゃいませ、小十郎様!姐さん!」
「ああ」
「…うん」


そう、笑顔で手を振りながら見送ってくれた兵士達の姿に、少し心が軽くなった。
それから少し歩くと、大きな木製の看板が見えてくる。でかでかと随分達筆で書かれたそれに、呆けて見つめていると、広大な緑が埋め尽くされた畑が視界に広がっていた。




――――――


「……済まねぇな」


互いに黙々と胡瓜を収穫していると、ぽつりと呟くような一言が聞こえてきた。思わず目を向ければ小十郎と目が合う。ふいとその視線は胡瓜へと戻るが、悠は目を丸くしたまま見つめていた。


「今、少しばかり忙しくてな、政宗様も成実も手が離せねぇ状態なんだ」
「……もしかして、戦?」


小十郎は悠へ視線を向けると、緩く首を横に振った。そして、持っていた胡瓜を篭に入れて、ゆっくりと立ち上がる。


「お前が来る前の事だ。武田と戦をした」


どくりと心臓が大きく鳴り、微かに手が震えた。


「だが、勝敗はつかなかった…織田の乱入によってな」


視線を落として少し眉を寄せる小十郎に、悠もゆっくり立ち上がって震える手を握り締める。


「政宗様は、今は武田とやり合うべきではないと仰っしゃった。そして先日、武田からの同盟に承諾したんだ」
「武田と、同盟?」
「そ。互いに利害は一致しているし、織田も東を潰しにかかってる。ならば、東は東で連携を取るべきだってね」


背後から聞こえた声に、悠はびくりと肩を揺らす。
小十郎は眉を顰めて、悠の背後を睨むように見据えていた。
悠は振り返って、後ろに立つその男を見上げる。その橙寄りの茶髪は、逆光で更に色鮮やかに見えた。


「初めまして、竜の姫さん」


にこりと笑っている筈のその双眸は、思ったよりも鋭くて情が含まれてなかった。





鋭利なる影

110420:執筆

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