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それから談笑を交えながら歩くと、見慣れた部屋に着いた。梵天丸を降ろし、政宗は着替えると言って奥の部屋に入るのを見送って座り込む。
すると梵天丸が何か銜えて持って来る。ぽとりと落としたそれを拾うと、それは掌に収まるような小振りの青い鞠だった。汚れがなくて色も真新しいが、少しばかり噛み跡や爪跡があるのを考えると、どうやら梵天丸の為に買ってくれたものだと分かった。しかも、結構最近。政務の合間に梵天丸と遊んでいるのを想像して、笑みが零れる。朝餉を終えた後、いつも懐かれて困ったような顔しながら、部屋へ連れて行くのは案外満更でもないという事だったのかとまたくすりと笑う。
鞠を投げてくれるのを今か今かそわそわして待つ梵天丸を見兼ねて、部屋の隅へ向かって投げる。緩い弧を描きながら落ちて転がるそれにじゃれつく様子を眺めながら、先程の言葉を思い出した。

「今日はその事についても、お前に話す事がある」

いつものような現代の話じゃなくて良かったと思ったものの、それとはまた違った意味で不安であった。する事が無くて暇をもて余す程の時間はあるが、此処での存在意義が無いように思えて仕方がなかった。何か手伝うにも、人手は十分に足りているらしく、部屋へと戻されてしまう。利用価値となる程に、この時代を知っているかと言われれば大まかなものでしか分からないだろう。此処に居るからこそ出来る何かが、悠には欲しかった。
溜息をつけば、かたりと襖が開く。普段通りの藍色の着流し姿になった政宗は、悠を見て一瞬目を丸くしたが、そのまま悠の前へと腰を下ろした。


「さっき言った話についてだが……お前に、知識と稽古をつける」
「…………………は?」


目を丸くして瞬きを繰り返している悠など露知らず、政宗は話を続ける。


「まあ今の世なら、お前が学んだ読み書きとは随分と様変わりしているだろうからな。それに加え、剣術と共に兵法も叩き込ませる。そこら辺の姫なんざよりも、ある意味ではgradeの高い教養だろ?」


そう、口角を上げて告げる政宗の膝元へ鞠が転がってくる。それを追ってきた梵天丸に、政宗は慣れた手つきで鞠を部屋の隅へ転がせた。それを互いに眺め、視線を合わせる。


「勘違いすんなよ、お前を戦に出すつもりも此処から追い出すつもりもねぇ。それだけは忘れるな」
「……うん」


どうやら、不安とやらは見抜かれていたらしい。ふ、と政宗が表情を和らげ、悠の頭をぽんぽんと撫でた。
すると、障子の外から小十郎の声が掛かる。障子越しに見えた影は小十郎の他に、高く一つに結いあげた大きな影がもう一つあった。


「どうした」
「政宗様に…まあ一応、客人が」
「ちょっと、一応って!流石にそれは酷過ぎやしないかい?」


小十郎に混じって、その明るい声が障子から聞こえてくる。聞き覚えのあるそれに悠が目を丸くすれば、政宗は隠す事なく溜息と舌打ちをして立ち上がった。


「…OK,入れ」


開いた障子から姿を現したのは、見慣れた小十郎と……


「おー久しぶりだな、政宗!」


派手な身なりをした前田の風来坊こと、前田慶次であった。




一難去ったら、また一難?

(何の用だ、慶次)
(謙信とこ行った帰りにちょっと寄ろうかなーってさ……え、あれ?政宗、いつの間に!?)
(…お前、本当にtimingの悪い野郎だな)
(政宗様、早々に追い出しましょうか)
(止めておけ、また城門を破壊されるのは御免だろ?)
(もう壊さないってば!)
((……壊したんだ…))


100506:執筆

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