13

成実脱走未遂から数日後、のある日。
綱元と宗時の二人とお茶をして部屋へと戻る途中、賑やかな声が聞こえて来る。
声の方に向かえば、そこは道場で袴姿の成実が兵士達を相手に鍛練をしていた。数人が束になってかかって行くも、成実は難無く受け流して払う。その喧騒を入口から覗いていた悠に、気付いた兵士が声を上げた。

「姐さん!」
「姐さんじゃないスか!」
「おいお前等、頭を下げろ!」
「「「お疲れ様っス!」」」

自分より年上、又は同じか年下の柄の悪い野郎達が揃いも揃って頭を下げる様は正に圧巻である。しかもいつの間に姐さんになったんだろうかと悠は呆然と見つめる。が、蹲ってひいひい言いながら爆笑している成実を睨み据えた。




―――



「――で、悠はどうしたんだ?」

右頬を赤く腫らせた成実が伏せたまま言うと、悠は転がっていた木刀を手にする。

「いやなんか楽しそうだなーって」
「……これ一応、訓練なんだけど」
「ね、参加していい?」
「ちょっ、話聞いてる!?」

手にした木刀を構えた悠を見て、目を丸くする。素振りをする様子を眺め、何処かで見たような不敵な笑みを浮かべて、立ち上がった。

「分かったよ。お前等は下がってろ」
「し、成実様!」
「大丈夫大丈夫、手加減はするっての」
「久しぶりなんだから、お手を柔らかにね」
「姐さんまで…!」
「勿論。じゃないと俺、梵に殺されるし」

対峙する二人に、兵士達はおろおろしつつも言われた通りに下がる。構える悠に比べて、成実は木刀を下ろしたまま見据えている。
先に動いたのは、悠だった。
高い音を立ててぶつかり合った木刀は、微かに軋む。成実はそれを払い、素早く振り下ろすも悠は何とか受け止めた。手加減しているとはいえ、やはり重い一撃に手がびりびりと痺れるような感覚が走る。

「へえ、中々やるな」
「まあね…!」

押しやるように返して、そのまま振り下ろすも、やはり受けられる。
丁度その時、訓練だというのに怒号が聞こえない事を不思議に思った小十郎が、ハラハラとその様子を見ている兵士達の背後から声を掛ける。

「おい、どうした」
「小十郎様!」
「何してんだ、あいつ、等…、は…」

木刀のぶつかり合う音が響き、兵士達の間から見えた二人の剣劇に我が目を疑った。
成実は伊達軍の猛将でもあり、武では政宗とも引けを取らないが、素早さには些か欠ける。それを突いたかのように、悠の一振りは素早い。悠の剣術は命を取るような戦向きのものではなく、型も崩れて目茶苦茶ではあるが、それを補う素早さと果敢に打ち込める勇ましさがあった。
筋は良いようだなと思いながら小十郎は眺める。
カンッと高い音を立てて悠の持つ木刀が薙ぎ払われて、床に転がる。成実は悪戯が成功したかのように口角を上げた。

「葵龍悠、討ち取ぐほお!」

悠は不意をついて、成実の急所を蹴り上げる。それを見ていた小十郎は眉を寄せ、兵士達はひっと小さく悲鳴を上げて青ざめた。


「伊達成実、討ち取ったりー」

木刀を離し、蹲まる成実を不敵な笑みを浮かべて見下ろし、悠は転がってきた木刀を掲げる。

「酷い、酷過ぎるよ悠ー!」
「いやあ、まさか届くと思わなくって」
「梵の言葉で言うなら…く、くり、くりて…?」
「クリティカルヒット?」
「そう、それ!う……悪い、梵…天下、獲ってくれよな…」
「「「成実様あああ!」」」



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