18

暖かい日差しが差し込む部屋に、悠と慶次の姿があった。
二人の間には掌程の札が床の上にずらりと並んでいる。それを悠は睨むように見回し、慶次は持っている束ねた札を読み上げ始める。


「ひさかたの、」
「……」
「光のどけき、」
「ちょ、ちょっと待って!分かる!春の日に、だよね!えーっと……あ!」
「お、分かった?」
「これだ!しづ心なく花の散るらむ!」
「当たり!」


悠は、よっし!と意気込んで脇に置くも、ぐたりと床の上に寝転がった。


「…疲れた」
「そろそろ休憩にするか」
「……うん」




――――――


「俺さ、明後日に此処を発とうと思ってるんだ」


縁側に座って庭を眺めながら、お茶を啜っていた悠は、突然の慶次の言葉に目を丸くする。それに慶次はいつものようににこっと笑った。


「明後日って…随分急だね」
「こっちも暖かくなってきたから、そろそろかなって。それに、もう悠に教える必要は無さそうだし」
「うーん、そうかな…」
「そうだよ。此処に寄ったら南に行こうとは思ってたんだ」
「南か…」
「南っていうか、四国だな。そこに友人が居るんだけど、久しぶりに会いに行こうかなってさ」


四国ねぇ…と悠は饅頭を頬張りながら返したが、何か忘れてるような気がして、少し首を傾げた。悠が考える仕草をしていると、その慶次は何か思い出したように声を上げる。


「あ、悠は知ってるんだったな。西海の鬼、長曾我部元親って言ったら分かるかい?」
「……あ、あああああー!」


眉を寄せながら饅頭を咀嚼していた悠は、慶次の言葉に何か思い出して突然叫んだ。それに驚いて目を丸くする慶次へと向く。


「侑果!」
「へ?」
「いやあー忘れかけてたな、どうしてるんだろ。もしかしたらいるかも!」
「…えっと、悠?」


話についていけずに慶次が困惑気味に見ていると、悠は漸く気付いて苦笑いをした。


「あーごめんごめん。もしかしたら、四国に私の友達がいるかもしんないんだよね」
「え、悠は未来の日ノ本から来たんじゃなかったのかい?」
「そうだけど、同じように来てる可能性はあるでしょ?」
「まあ確かに…でもなんで四国なんだ?それなら此処でも良いんじゃ…」
「ダメだね。四国じゃないと絶対ダメ」


あーでも安芸かもしれないな…と何やらぶつぶつ言っている悠を見つめていたが、慶次は口を開いた。


「じゃあさ、その子に文を書いたらいいんじゃないか?」
「文?」
「そう!安芸はちょっと厳しいけど…四国だったら俺が届けるよ。もし分からなくても、元親に頼んでおくからさ」


携帯電話の使えない今、連絡手段は手紙しかない。
それに、政宗達は悠に諸国の情勢を一切告げていない為、悠には全く分からなかった。ましてや、この奥州から遥か南の四国である。分かる筈もない。
居るか居ないかで考えると、悠には居るような気がしてならなかった。もし今は居ないとしても、時間差等で来るかもしれないとさえ思っている。
悠はにこりと笑った。


「じゃあ、慶次頼むね」
「まっかせな!」





南への便り


(いいな、私も行きたーい!)
(伊達と長曾我部は友好関係で、ほぼ同盟してるようなものだから行けると思うよ。なんなら元親が来た時に船に乗せてもらうとか!)
(それいいね!あー今日にでも来ないかな…)

110206:執筆

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