17

「ああ、そうだ。思い切り打って来い」


カン、カン、と木刀を打ち込む高い音が道場に響く。
座って見ていた慶次が、道場を覗く政宗に気付いて見上げる。


「お、政宗」
「どうだ?」
「すごいよ、悠は。飲み込みが早くてさ、素質があるんじゃねぇかな」
「確かに、前と比べりゃあ随分と様にはなってきてるか」


ちゃんばらごっこ。
その言葉が一番似合うと、政宗は入口に寄り掛かって悠を眺める。少しずつ型が身についたとはいえ、所詮は"魅せる"刀。護身目的もあるが、斬る為の、戦う為の刀ではない。少しばかり嗜む程度である。ただ果敢に打ち込む姿は、まるで昔の自分と小十郎のやり取りのようだ、と政宗は二人を見つめてふと笑みを零した。


「また少しぶれてるぞ。もっと踏み込め」
「はいっ!」


悠が打ち込もうと踏み込んだ時、政宗が声を掛けた。
悠は驚いているものの、小十郎が驚かない辺り、眺めていた事はとうに知っているようだった。


「…政宗様、執務はどうなされたので?」
「開口一番にそれか…やっと休憩だ。お前の代わりの見張り役が喜多じゃあ、休憩すらろくに取れやしねぇよ」
「それは何よりでございます」


不満顔の政宗などさして気にする事なく小十郎は言う。その見慣れたやり取りに、慶次も悠も苦笑いを浮かべる。
すると政宗は、慶次が肩に立て掛けていた木刀をするりと抜き取ると、悠に切っ先を向けて不敵な笑みを浮かべた。


「どうだ、悠。俺と手合わせしてみるか?」


悠と慶次はぽかんと呆気に取られたように見つめていて、政宗の隣に居た小十郎は、やはりかと言わんばかりに呆れた表情を見せている。


「…は?いや、何言ってんの!?無理だから!死ぬから!」
「そんなもん、やってみねぇと分からねぇだろ。成実を討ち取ったお前なら尚更な」
「え、待って!あれはその…当たると思わなかったんだって!本当なら、しげちゃんに一本取られてるんだよ?見てたから分かるよね、小十郎!」


はあ…とあからさまな溜め息をついた小十郎は、政宗を見てから悠へ見遣る。


「諦めろ。先程と同じようにやればいい。
政宗様、あまり無理を強いてはなりませぬぞ」
「Of course.」
「ええ!?ちょっと、小十郎!」


小十郎がそこを除いて、慶次の方へ歩いて行くのを悠が絶望的な表情で見つめている。それを見兼ねて、政宗は木刀を自分の肩に乗せながら口を開く。


「本気を出す訳じゃねぇんだ。gameだと思えよ」
「この前、百人一首やった時にゲームだろうが常に本気だって言ってたのは誰よ」
「俺だ」
「ほーらー!」
「いいから打ち込んでみろ。梵天丸が俺のkittyになってもいいのか?」


とんとんと木刀で肩を叩きながら、挑発的な笑みを浮かべる政宗を睨むように見つめていたが、悠はすっと木刀を構える。それを見て政宗もゆっくり構えると、悠が先に動いた。
カン、と高い音が響き、両者の木刀が交わる。


「梵は私の猫なんだけど」
「その割りには、俺の所によく居るじゃねぇか」
「それは政宗じゃなくて、政宗の"部屋"が好きなだけだよ」
「Hum…随分と余裕そうじゃねぇか、なァ?」


にやりと笑った政宗は悠の木刀を少し押し返す。それだけで悠が力を加えてもびくとも動かない。木刀が軋む音が聞こえ、悠は間合いを取った。
政宗の余裕そうな表情に木刀を握り締めると、素早く踏み込む。勢いに任せて打ち込めば、難無く受け止められ、振り回した刃は躱されて一太刀が飛んで来る。
隙があると思って打ち込んでも、罠と言わんばかりに強烈な一太刀が来る。隙なんて有って無いようなものである。一刀でこれならば、六爪では更に無いだろう。


「どうした、疲れてきたか?」


ヒュンと空を斬る音がして、間一髪で避ける。それから立て続けに起こる斬撃に避けきれず、薙ぎ払われた木刀が宙を舞う。
悠が木刀に気を取られたその隙を付き、政宗は一気に間合いを詰めると、悠の肩を片手で掴み、背後の壁へと押し付けた。その手を挙げ振りほどこうと藻掻けば、両足の間にするりと入って来た政宗の膝に、悠はびくりと固まる。木刀がそっと首に宛がわれ、目の前には不敵に笑む政宗の顔があった。


「The end.俺の勝ちだな」





Game


(ひ、卑怯…!)
(Ah-n?何だって?)
(近い近い近い!こ、小十郎おお!助けて、小十郎ー!慶次でもいいから!)

(全く…政宗様、お戯れも程々になさいませ)
(俺でもいいって…ひどいなあ、悠は)

110205:執筆

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