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悠は梵天丸を抱えて、長い廊下を歩いていた。
昨夜の寝る前に、政宗からの言伝を聞いたからである。内容は話があるとしか知らされていなかったが、大体未来か英語の話が多い。ああまたかと、内心では正直面倒だと思っている次第だった。自分達にとって当たり前だと思っている電気や電子機器の構造や何やらを全て知った上で使っているかと聞かれると、そうではないのが実情である。ましてや、政治関係となると詳しくなぞ説明出来る筈もない。忙しい身である政宗と一対一で話せる貴重な時間ではあるが、少し億劫になってきていた。
今日も何をまた追求させられるのかと考えて、悠は溜息をついた。そう歩いていれば、向かい側から噂の張本人が歩いてくるのが見える。だが、その格好にぴしりと固まった。
淡い灰色の着物は既に両腕を抜いて、紺色の袴の上に被さっているだけになっており、鍛え上げられた上半身は、その左肩に掛けられた手拭い以外殆ど露わになっている。そして右手には木刀が握られていた。
悠が廊下の真ん中で呆けているのに気付き、怪訝な表情で声を掛けた。


「悠、こんな所で何してんだ」
「…………………え?ごめん、聞いてなかった」
「だから、こんな所で何してんだよ」
「なにそれ、政宗が呼んだんじゃないの?」


眉を寄せて少し考える仕草をした後、ああと思い出したように声を上げた。


「俺の部屋に行って待ってろよ」
「だから向かってんじゃん!」
「そりゃ反対方向だぜ」
「………まじで?」
「ああ、まじだ。俺も戻る、ほら付いて来い」


そう言って政宗は、悠、梵天丸の順に頭を撫でて、悠の横を通り抜けた。
前の廊下を女中が数人が慌ただしく走って行くのが見え、怪我人かなと視線で追い掛けてから振り返れば、先で眉を寄せた政宗がこちらを向いて待っているのが見えた。早足で追い付いて、広い廊下を並んで歩き始める。


「あんまり成実に余計な事を教えるんじゃねぇぞ。馬鹿の一つ覚えみてぇに最近まじまじって煩ぇんだよ、あいつ」
「政宗と違って、しげちゃんよく使い道を間違えるけどね」
「Ah-n?俺を誰だと思ってんだ」
「ああ、そうでしたねー」


眉を寄せる政宗に悪戯な笑みを返すと、悠に合わせた速度で歩く政宗に気付く。ちらりと見上げれば、また視線が合って、すっと左目を細めて口元を緩めるその笑みは、いつもとは違う軟らかさと穏やかさを含んでいた。それに胸の奥が一瞬締め付けられるような感覚がして、ぎこちなく視線を外す。それをごまかすように梵天丸を抱き直し、口を開いた。


「なに、訓練?」
「まあな、たまにはあいつ等の相手もしてやらねぇと」
「へぇ…」


そう言う政宗の横顔は、嬉しそうに見える。
皆に慕われる分、政宗自身も同等かそれ以上に皆を信頼し、必要としている。この相互関係が団結を生み、軍全体が強力になるのだ。これが伊達軍の強固な結束力の所以なのである。
視線を木刀に移した悠に気付き、先日悠と成実が道場で鍛練ならぬ、ちゃんばらごっこしていたという話を政宗は思い出した。


「小十郎から聞いたぜ。あの成実を負けさせたってな」
「本当は一本取られてるんだけどね」
「それでも勝ちは勝ち、だ。小十郎は、目茶苦茶だが中々筋は良いって言ってたぜ」
「え、まじで?小十郎に教えて貰おうかな…」
「今日はその事についても、お前に話す事がある」




日々は仄かに色づいて

100504:執筆

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