12

「………暇だ」


縁側に腰を下ろして庭を眺めていた悠はぽつりと呟いた。どたばたと遠くで聞こえる足音以外は案外静かで、くたりと横に寝転ぶ。
あれから数日。受け入れてくれたはいいが、至れり尽くせり状態でする事がない悠は、暇を持て余していた。愛猫の梵天丸は、今朝の朝餉の時から政宗の側を離れないので、どうせ今日は執務しかねぇしなと政宗はそのまま部屋へ連れて行ってしまい、今日はいつもよりも格段と退屈であった。
朝餉を終えたばかりではあるが、悠のお腹から音が鳴る。お代わりすればよかったなと思って寝返りを打てば、こちらへ向かってくる足音が聞こえる。足音のする方へ視線を向ければ、青い羽織を靡かせて成実が駆け寄ってきた。


「悠、今暇?暇だよな?」
「え、うん…?」
「じゃあ遊びに行かねぇ?」
「行く!」


即答した悠に成実はにかっと笑う。悠は起き上がると、腕を組む成実を見上げた。


「どこ行くの?」
「んーとりあえず城を出る!」
「勝手に出て良いの?一応、断りを入れないと…」
「んな事したら捕ま………良いって、俺が許可する」
「今なんか可笑しい言葉があったよ、絶対」
「気のせい気のせい。ほら、行くぞ!」


成実に腕を引っ張られながら、大丈夫なのかなと悠は不安そうに見遣る。嫌な予感がして悪寒が走ったが、気のせいだと思う事にした。
そしてそのまま成実に引っ張られ、庭へと出る。


「ね、なんで隠れて移動しなきゃなんないの?」
「あー忍除けの仕掛けが至る所にあるんだよ」
「へぇ、そんなのがあるんだ」
「だから悠も下手に庭をうろつくなよ。どかーんってなってぐさっだからな」
「うん、全く意味分かんない説明をありがとう」


ある程度進むと、蔵のある少し開けた所に出る。
成実はふうと溜息をついて、やっと壁から離れた。


「もう大丈夫なの?」
「…ま、大丈夫だろ」
「そ。ねぇしげちゃん、どこ行く?私、まだ城から出た事ないんだけど」
「悠は城下、初めてだったか。俺が案内するよ!」
「まじで!」
「まじ…?」
「あ、えっと…本当って事」
「へぇ。ん、まじで!…で、あってる?」
「うん、あってるあってる!」

「楽しそうだな、お二人さん」


そう二人で笑っていると、聞いた事のある声が後ろから聞こえてきた。声の方へ振り向くと、見覚えのある姿が腕を組んで壁に寄り掛かっている。


「げ…」
「あ、左馬さん」


宗時が壁から身体を離し、二人へ近付く。それを見た成実が後退りしようと足を浮かした時、その背後に幾つかの影が降り立った。


「え…」
「もう逃げられないな」
「…………うっ」
「成実、」
「…あーもう分かったよ。ちゃんとやる、やるって!」
「それが賢明だな」


宗時がちらりと見遣ると、影は直ぐに成実を後ろからがっしり掴む。悠は呆れたように溜息をついた。


「……しげちゃん…」
「悪い、悠…また今度な」
「今度は全部終わってからにしてよ」
「ああ!」
「成実を綱さんとこに連れて行ってくれ」
「御意」


影の一人がそう答えると、成実を連れて消えた。
すご…!っと消えた後も見ていれば、後ろからくっと笑い声が聞こえる。


「驚いただろ?」
「はい、初めて見ました!かっこいいですね!」
「そうか。あいつ等に伝えとくよ」
「本当すごい…というか、左馬さんも気配を全く感じなかったんですけど、忍なんですか?」
「まさか。あいつ等は俺の部下なんだ」
「部下!?」
「ああ、一応な」


驚く悠を見て、目を細めて微笑んで返す。
そして組んでいた腕を下ろし、僅かに眉を下げた。


「巻き込んで悪かったな。部屋まで戻れるか?」
「…………」
「ふ…じゃあ、行くか」
「……お願いします…」



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