悠を部屋に帰した後、政宗が口を開いた。
「成実、お前はどう感じた」
政宗の言葉に、胡座をかいて思案する。
成実とて、伊達の一武将。
曲者かどうかの見極めは伊達の中でも鋭い。政宗が成実と悠を会わせた理由も、実はそこにあった。目先に捉えわれがちな自分自身を理解している政宗は、目利きの良い成実に伏線をおいた、という事である。
その成実から見ても、悠は不思議に感じた。城下に居るような娘達とは違ってこの御時世には無い、ぬるま湯のような独特な柔らかい雰囲気だ。だが、それと同時に何か別のものがそれを補わんとしている。それは気高くもあり、氷柱のような鋭利さでもあった。
「不思議、というかなんと言うか…今まで会った事無い感じの娘さんだな。だからといって間者とかの類いでは無いよ」
「ほらな」
勝ち誇ったような笑みを浮かべている政宗に、小十郎は溜息をつく。
「ですが、あの娘に危険性が無いと断言出来ません」
「あ、梵は腕のあれ見た?」
「ああ、竜だろ?知ってる」
「じゃあ、それが"独眼竜"だって事も?」
「Ah…?」
成実の言葉に政宗は目を見開くと、成実は僅かに目を細めて口角を上げる。
「竜なんて、あの"昔噺"だと思わねぇ?」
「お前もそう思ったか」
「あんだけ聞いてりゃあ、そう疑いたくもなるさ。で、俺に話してない事はいつ教えてくれんの?」
気付いてたかと息を吐くと、政宗は口を開く。
「やっぱりな、そんな気はしてたよ」
暫くして、それを聞き終わった成実は後頭部を掻いた。
「どうすんの、政宗様は。追い出したりするのか?野放しにすんのは、身を滅ぼすかもしんねぇよ?」
「お前な…」
「如何なさいますか、政宗様」
政宗は立ち上がり、置いてある六爪の内の一本を半分ほど抜く。
白銀に光る刃に、その凛とした双眸の輝きと似ていると思った。
「此処に置く。元よりそのつもりで連れて来たようなもんだ、間者だというなら斬りゃあいい…それだけの事だ」
「じゃあ、俺が見ておくよ。その方が小十郎も少しは安心だろ?」
「だが、」
「頼んだぜ、成実」
小十郎の言葉を遮って成実に笑みを向けると、高い音を立てて鞘へと納めた。
090905