06

先ほどの女人から、子猫は無事だと聞いて悠は安堵の溜め息をついた。何処に居るのかと訊ねれば、殿に随分と懐いていると言う。それに悠はなんだか複雑な気持ちになったのだが、女人が素敵な名前ですねとあまりに嬉しそうに告げて、悠が笑って誤魔化したのは言う迄もない。
怪我はなく、体調も問題ないので、噂の奥州米沢の殿に謁見する事となり、女人に案内されて悠は長い廊下を歩いている。
廊下から見える広い庭は美しく、先ほど頭を過った可能性がないとは言い切れないなと悠はぼんやりと思う。
女人はとある部屋の前で足を止めた。


「こちらにございます」


女人が障子の前に座ると、悠も習って座った。
それを横目に女人は口を開く。


「喜多にござります。御客様を御連れ致しました」
「OK,入れ」
「失礼致しまする」


中から返って来たその声に、悠は目を丸くする。
女人が襖を開け、入るよう促され、やっと我に返った悠は恐る恐る部屋の中に入った。
促された場所に座ろうとした時、聞き慣れた鳴き声が聞こえてきた。


「にゃー」
「ぼ、梵天丸!」


足元に擦り寄る子猫を見て、悠はつい声を上げる。悠が抱き上げると、梵天丸は甘えるように擦り寄った。安堵の溜息をついたところで、悠ははっと気付く。
そろりと見れば、目を見開いた政宗と傍に控える小十郎が同じような表情をしている。
悠は慌てて座り、頭を提げるも政宗が制止した。


「面上げろ。そのkitty、"梵天丸"っていうのか」
「…はい」
「Ha,Alright.」


くつりと笑う政宗を見て、悠は目を見開く。悠には、目の前に起こっている事についていけず、混乱してしまっていた。


「それで、身体は大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫です」
「そうか。単刀直入に聞くが、あんなところで何をしていた」


そう言われて、まだ混乱している頭を無理やり動かし、水中の出来事を思い返す。


「確か、出掛けようとして、ドアを開けたら、すぐに蒼い水面があって…周りは林で、白い花がたくさん咲いていて…」
「泉だな。それで?」
「泉から光が三つ出てきて、」
「…光?」
「はい。飛び出した梵天丸を掴まえようとしたら、力が抜けてしまって…」


小十郎は目を見開いて、信じられないといった様子で見つめていた。
悠は躊躇いがちに政宗を見つめる。


「…それと、」
「なんだ」
「私が、遥か五百年近く後から来たと言ったら…どうしますか?」


そう告げた悠に、政宗は一瞬瞠目したが、楽しそうに口角を上げた。


「詳しく聞かせろ」


悠の膝の上で丸くなった梵天丸が、二人を見て一鳴きした。




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