「どういう事にございましょうか、政宗様」
上座に座る隻眼の青年、伊達 政宗は困ったように煙管から口を離して煙を吐いた。
「…どうって言われてもな」
「では、問を変えましょう。あの娘を何処から攫っておいでですか」
「小十郎、変な言い方するな。俺が人攫いみてぇじゃねぇか」
「違うのですか」
政宗は溜息をついて、器に灰を落とす。そして煙管を置くと、目の前に座る小十郎を見た。
「城の裏山に泉があっただろ?」
「古しえより竜が棲むとされる、あの泉ですか?」
「ああ。その泉から出て来たんだよ、あのgirlがな」
「……政宗様。御無礼を承知の上ですが、落ちて溺れていたのでは?」
呆れの表情を隠そうともせずに言った小十郎に、政宗は不敵な笑みを浮かべ、胡座の中で寝息を立てる小さな背中を撫でる。
「違うな、溺れかけたのはこいつの方だ。あのgirlは溺れたというよりは…いきなり泉から現れた、だな」
自信有り気に告げる政宗に、小十郎は眉を顰めた。
いきなり現れたということは、忍の術しか考えられないだろう。よもや、この米沢に間者が紛れようとは…とそんな小十郎の思考を見透かすように、政宗は首を横に振る。
「お前の考えてるような間者の類いじゃねぇよ。あんな細い腕じゃ、戦える訳がねぇ」
「では、」
「まあ聞け。泉を古しえから守って来た伊達家に代々語り継がれているあの話…覚えてるだろ、小十郎?」
「存じ上げております。が、まさか…」
信じられないとばかりに苦笑する小十郎に、政宗はにやりと口角を上げる。
「あのgirlの腕に竜が居るんだよ」
――――――
額に感じたひやりとした冷たさに、悠は目が覚めた。
「お目覚めでございますか」
にこりと優しい笑みをした女人に、悠は呆気に取られる。上質な着物を着込み、長い髪を結ったその姿は現代ではまず見ない。
「あの、ここは…?」
「奥州の米沢にござります。気を失っていた様で殿がお運びになった、と…」
女人の言葉に、悠は眉を寄せる。覚えているのは、水中での出来事だけ。やはりあのまま気を失ってしまったのかと思いかけたが、悠は女人の言葉をもう一度思い返す。おうしゅう、よねざわ。悠が知る限りで当てはまるのは、奥州と米沢であるが、それに殿とくると、まさか、と思ってしまう。
それよりも、一緒に泉へ落ちた筈の子猫の姿が見当たらない事に、悠は血の気が引く。
「あの、梵天丸は!灰色の子猫、知りませんか!?」
がばりと勢いよく起き上がって詰め寄ると、女人は驚いたように瞬きを繰り返して呟いた。
「梵、天丸…?」