03

沈む身体は鉛でも付いているかのように重く、全く動かない。
身体を取り巻く二つの光は、まるで悠を誘導しているように見えた。
突如、下から湧き出た気泡の群れに驚き、悠は肺に残っていた酸素を少し吐き出してしまう。息苦しさに重い身体を動かそうにも動かず、酸素不足で意識がぐらりと遠退く。
一つの光は身体の周りをぐるぐると旋回し、もう一つの光は悠の前に近付き、胸の中に吸い込まれるように入って消える。心臓がどくりと大きく高鳴ると、水中で呼吸が出来るようになり、息苦しさは消えた。
だが、次第に身体の力が抜けていき、旋回する光が悠と向かい合うように止まった。それは一際輝くと、左腕に入り始める。じりじりと焼かれるような感触が悠の左腕を走っていく。暴れようにも身体に力が入らず、激痛に耐えていると光は消え、左腕が淡く光った。
意識が薄れ、力の抜けた悠の身体を、浮上させるように下から気泡の群れが水面へ上がっていく。それに身を任せながら、梵はどうしただろうと悠は思考の鈍くなった頭で思った。




――――――


細い林道を抜けると、昔と変わらない美しい泉がある。
深呼吸をすれば、その澄んだ空気に身体を洗われるような感覚がした。
ふと、泉を見れば水面が波立っている。青年は不思議に思い、柄に手を伸ばしかけたが、泉から出てきた姿にその手を戻した。


「にゃお」


泉から上がった小さい身体をぶるりと震わせ、滴る水滴を弾くと青年を見上げて一鳴きする。
馬から降りてゆっくり近付くと、また鳴いて足元に近付いてきた。しゃがみ込むと小さな身体をびくりと震わせて少し離れ、警戒するように見つめる。
それを見て柔らかく微笑み、手を差し出す。


「来い。大丈夫だ」


子猫は暫く青年を見つめていたが、一鳴きするとその手に擦り寄った。それに目を細めて小さな身体を抱き上げると、その双眸と目を合わせる。


「Kitty、どっから来たんだ?」


子猫は答えるように一鳴きしたが、生憎言葉が分からない。困ったように笑いながら、懐から手ぬぐいを出して包んでいると、泉からばしゃりと大きく水が飛び跳ねた。
それに驚いて、腕から飛び出したその小さな身体へ手を伸ばすものの、泉を見つめていた子猫はゆっくり泉へと近付き、青年へ振り向いて一鳴きした。それを不思議に思った青年は泉に視線を向ける。
そこには、気を失った娘が水面に浮かんでいた。




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