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接触した船を奪取し、親泰達の船へと戻った元親は周囲を見渡す。直ぐ傍の親益達の船から歓声が湧いたのを横目に、士気の高い自軍の優勢は直ぐに見て取れたが、讃岐方面の水平線に船影は見当たらない。
毛利軍本船へ向き直れば、本船の前から動かなかった二つの船が進み出て来る。それを見て、床に立てていた碇槍を肩に担いだ。


「親泰、」
「ん?」
「左舷を正面にしろ。
弥九郎、右舷を正面だ!」


それに親益は、おう!と頷いて早速指示に取り掛かり始める。
それを呆然と眺めていた親泰は、慌てて元親へ声を掛けた。


「待てよ、親兄!下手すれば、この船に突っ込んで来るかもしれないぜ!?」
「んな事はさせねぇよ。左舷から船を撃って、減速させりゃあいい。ついでにあの敵本陣を狙って撃ってくれ」


そう言った元親から毛利軍本船へと視線を移した親泰は、何かに気付いて元親に向き直った。


「なんだよ、そういう事か…分かった。
気をつけてくれよ、親兄」
「おう、頼んだぜ」


じゃらりと鎖を鳴らしながら、船尾へ向かう元親を見送り、親泰は直ぐさま指示を出す。左舷から大砲を覗かせ、聞いた親益も右舷から大砲を覗かせた。二人の号令に、大砲は次々と火を噴く。
前線へ向かう毛利方の船が減速し、毛利軍本船までには届かないものの、その手前で断続的に水柱が上がる。
本船を動かせる為の威嚇砲撃かと元就は思ったが、高く立ち上る水柱の間から、船内へ降ってきた銀色に素早く輪刀で受ける。
金属音が響き渡り、双方が間合いを取った。


「相変わらずだな、毛利。遥か後方で高みの見物か?」
「前線だけでなく、よもや一人で敵本陣に乗り込むとは…浅はかな大将よ」
「あんたと違って、俺は野郎共を見殺しにしない主義でね」
「何度も言わせるでないわ。あの者達は我が策に従う駒よ、幾らでも代えはきく」


激しい金属音が響く。
双方の武器がぶつかり合い、火花が散る。交わる武器越しに、双方の鋭い目が合う。


「なら、何度も言わせるんじゃねぇよ。テメェの兵も、テメェと同じ人間だろうが」
「それが敵の貴様に何の関係がある」
「戦う前から疲弊してる敵となんざ、やり合いたくねぇんだよ!」


元親が炎を纏った槍を振り回して炎を飛ばせば、後方へ下がった元就が黄緑の円を作って弾いた。
円を避けて向かったところで、床が黄緑に光り輝いていき、元親は瞬時に躱すと次々と爆発していく。素早く網を投げるが、輪刀を二つに外した元就は斬り裂いた。
元親は碇に足を掛けて元就目掛け、空中から突進する。
碇と刀が激しくぶつかり合った。




――――――


元親が毛利軍本船へ突撃したのを見て、親泰と親益は砲撃を敵船へ回す。
減速した敵船を砲撃をしながら、接触しようと船を横付けした。


「乗り込ませんじゃねぇぞ!片っ端から撃て!」
「用意…、撃てー!」


砲撃と発砲音が鳴り響く。
親益達の背後から、砲撃が落ちて、敵船の甲板に穴を開ける。
横付けする援軍の船から、聞き覚えのある声が掛かった。


「親益様、今が機ですぞ!」
「ああ、悪いな元宅!」


それを機に、親益が兵と共に敵船へ飛び込む。
その横の船では、親泰達が船へ乗り込んで来た敵兵を倒していた。


「親信、銃兵を上に移動させろ!」
「承知!」
「船体を少し戻して、橋を落とせ!縄も切れ!」
「「へい!」」


親泰があちこちに指示を出しながら槍を振るう。隣で親益達が敵船で戦っているのを見遣り、向かってきた敵兵を薙ぎ倒した。
その時、背後から敵船に砲撃が落ち、折れた帆柱が甲板に崩れ落ちていく。敵兵達が混乱し、半壊する敵船を前に、親泰は振り返ると、援護砲撃をする長曾我部軍本船が見えた。


「野郎共、行くぜ!」
「「おおー!」」


長曾我部軍本船では、援護砲撃が敵船に直撃し、野太い歓声が上がる。
本陣にいた可之助も嬉しそうに拳を上げていたが、ふと、風向きとは違ったふわりと旋回する風が吹いていくのに気付いた。
不思議そうに見上げると、先程までばたばたと喧しくはためいていた帆が穏やかに波打っており、大人しかった鸚鵡がけたたましく鳴いた。


「お、おお落ち着いて…あ、何処行くんすか!」
「オタカラ、ユウカ!」


ばさり、と高く飛び上がる鸚鵡に、可之助はまずいと慌てて声を荒げる。


「ああ、駄目すよ!ちょっ、危ねぇですぜ!」
「ユウカ、ユウカ!」
「そうですぜ、アネゴの為にも早く帰らねぇと……って、ああー!俺の話、ちゃんと聞いて下せぇってー!」


可之助が鸚鵡を見上げて叫ぶ、その後ろの帆柱。
その上に、人影のようなものが横切っていったが、それは一瞬の事で、誰一人として気付く事はなかった。





両雄、激闘

101022:執筆

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