32

互いに大砲での撃ち合いが、徐々に激しさを増していく。
本船を追い抜いて先陣を切る、二隻の船が並行して進んでいる。
それぞれの船首には、親泰と親益が立っていた。


「弾を出し惜しむな!撃ちまくれ!」
「接触したら、鉄砲隊を背後にして乗り込め!遅れをとるなよ!」


自ら毛利方の船に接触し、海上戦は船上戦へとなっていく。他の船も次々に毛利方の船と接触し、前線は激戦を繰り広げていた。
砲撃を繰り返す本船から、戦況を見ていた元親だが、黙って眺めている筈もなく、船首楼へと飛び乗る。


「野郎共、本陣は任せたぜ!」
「任せて下せぇ、アニキ!」
「守り切ってみせやすぜ!」
「「「うおおおー!」」」


意気揚々とする野郎共へ振り返って、船から飛び降り、弩九で海面を駆け抜ける。元親を狙って砲弾が落下し、断続的に水柱が上がるが、それすらも上手く躱していく。親泰達のいる船まで駆け抜け、高く飛び上がると、最前線の敵船へ飛び込む。着地すると同時に、兵達を巻き込んで倒した。
甲板に刺さった碇槍を抜けば、敵兵達が押し寄せる。向かって来た兵を躱して、そのまま蹴り飛ばし、横から来た兵を槍で薙ぎ倒す。四方八方から一気に来た兵達には、炎を纏った槍を振り回して吹き飛ばした。

親泰は元親の姿を見つけると同時に、上から元親を狙う弓兵達を見つける。


「親信、上だ!撃て!」


親泰は槍を振るいながら、斬り込みつつ鉄砲隊を引き連れた親信に声を荒げた。


「はっ!
上にいる弓兵を狙え!撃てー!」


発砲音が響く中、親泰は薙ぎ倒しながら、元親へと近付いて背を寄せ合う。


「親兄、なんか変だぜ。毛利の本船が動かねぇ」
「ンなもん、いつもの事だろ…と言いてぇところだが、こいつはどうもきな臭ぇな」
「まさか豊臣が絡んでるんじゃねぇのか?」


親泰と背中合わせで敵兵を倒しながら、元親は毛利方の本船を睨み据えた。





――その一方の岡豊城。
大手門を前に、後陣の親貞率いる二千の兵が集まっていた。
その親貞の横に、赤紫色の軽装をした侑果が立っている。
向かいには、城代を務める儀重とその補佐役に孝頼、慶次が並んでおり、孝頼の後ろには千達が控えていた。


「皆、城は頼んだぞ」
「はい。この福留隼人儀重、身命を賭してお守り致す所存」
「何かありましたら、直ぐにお知らせ致します」
「宜しく頼みます。
侑果殿、場所は大丈夫か?」
「はい、覚えました」
「侑果殿もお気をつけて。ご無理はなさらないで下さい」
「千と共に、お帰りをお待ちしております」
「侑果様、どうかご無事で…」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、すぐ帰って来ますね」


皆が言葉を交わす中、慶次は浮かない顔で侑果を見つめていた。ふと目が合い、侑果が目の前に立つ。


「そんな顔しないで。すぐ帰って来るから、ね?ほら、夢吉も」
「…キィ」


侑果は微笑んで、慶次の腕をぽんぽんと叩き、夢吉を撫でる。
それでも、慶次と夢吉の表情は暗かった。


「侑果、俺…」


慶次が何か言いたげに、口を開いたり閉じたりを繰り返していたが、言いかけた言葉を飲み込み、曖昧な笑みを浮かべた。


「……待ってるよ」


そう言った慶次に、侑果は一瞬だけ悲しげに目を伏せたが、いつもと同じように、にこりと微笑んで見せた。


「うん!帰ってきたら、またお団子食べに行こうね」
「ああ、何回だって連れてくよ」


侑果が親貞を見て頷くと、親貞は同じように返し、馬の方へ歩いて行く。それに着いていく侑果の、二人の背を静かに皆が見送る。
親貞が騎乗し、侑果がその横へと並ぶ。
侑果はゆっくり深呼吸すると、纏っている風が穏やかなものから少しずつ強くなって、口当て変わりの黒い布の端が襟足でゆらりと靡いた。

法螺貝と陣太鼓が鳴り、兵が次々に門をくぐって行く。そして、最後の兵達がくぐり、七鳩酢草の軍旗が遠ざかる。
小さくなった軍団を見送り、皆が徐々に戻っていく中、慶次はそのまま立ち尽くしていた。


「なあ夢吉、どうしてこうなっちまうんだろうな…」


そう呟くような小さな声に込められた思いは、慶次に重く伸し掛かっていた。





戦乱の世

101017:執筆

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