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伊予側の海岸に、七鳩酢草の帆が掛けられた一際大きな船が一隻。それよりも二回り小さい船が六隻。関船が数十艘が並んでいる。
本船の本陣を預かる親泰は、対岸の毛利陣営ではなく、讃岐方面を気に掛けていた。


「親泰様、アニキが到着しやした」
「チカヤス、チカヤス!」
「おう、今行く」


呼びに来た兵卒の肩に乗っていた鸚鵡が、ひらりと親泰の肩へと乗る。指で優しく撫でながら、本陣にある止まり木へと乗せた。大人しく毛繕いするのを眺め、本陣を後にする。
親泰が船から降りると、本隊に指示をしている元親が見えた。


「親兄!」
「おう親泰、ご苦労だったな」
「いーや。思ったより、到着が早くて驚いたよ」
「そうか?」


そこに、控えていた可之助がにやにやと笑いながら、親泰へ近付いてひそひそと耳打ちする。


「アネゴですよ、アネゴ」
「は?」
「アニキは気付いてやせんが…紫色の素晴らしい打掛で着飾ったアネゴに、"御帰還、お待ち申し上げます"って言われてからは、もうずっと馬を飛ばしまくりなんですぜ?」
「…なるほどな」


鈍いんだろうか…と、親泰は半ば呆れた表情で見遣る。当の元親本人は、二人を見て不思議そうに少し頭を傾げていた。
すると、船から親益が降りてきた。


「もう着いたんだな」
「ご苦労だったな、弥九郎」
「ああ。いつでも船は出せるぜ。もう軍議始めんのか?」
「そうだな…本陣に集めてくれ」
「おう」


親益へそう告げて、元親は毛利陣営から讃岐方面へ見遣る。


「親兄、」
「…ああ、分かってる。後陣の親貞に任せておいた」
「もしかして…動いたのか?」
「いや。だが、用心に越した事はねぇからな」
「そっか。ただの杞憂であればいいんだけど」




――元親が着陣した頃。
四国の地から北東に位置する、大坂。
その大坂湾から、ずらりと並んだ関船が数十艘、安宅船十隻が次々と出航していく。
その中でも、一際大きな一隻の戦艦がゆっくりと出航した。
船体は鉄で覆われており、巨大な口径の大砲が中央に三つ並んでいる。
重厚感のある船体の所々には、五七桐の旗が靡いていた。





点火する導火線



可之助は、中島 可之助(なかじま べくのすけ)。人物紹介には載せませんが、割りとちょこちょこ出て来ます。昼餉話(四国土佐篇の二十)で、侑果を引き止めた兵は可之助だったりします。
101010:執筆

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