24

侑果が廊下を歩いていると、向かい側の廊下を忙しなく行き交う兵達が見える。
ここ数日の間に、城内の雰囲気は何処となくぴりぴりしたものへと変わっていた。何も言われていなくとも、侑果にはなんとなく分かった。
戦が始まるのではないか、と。
ゆっくり視線を外せば、庭の池の周りで動く毛玉のような小さな背中に気付く。池に浮かんだ葉を取ろうとするその背中へと、もうひとつの声が掛かる。


「こーら、夢吉。池に落っこっちまうぞー」
「キキッ」


そう言いながら庭へ姿を見せたのは、客人の慶次だった。慶次が腕を伸ばすとその腕を伝って、夢吉が肩へと登る。
この光景だけは、城内の雰囲気とは全く違って穏やかなそれであった。
それをぼんやりと見つめていた侑果に、夢吉が気付いて声を上げる。それに慶次も気付いて、にこりと笑うと侑果へと近付いた。


「もう昼餉ってかい?」
「なに言ってんの、さっき朝餉食べたばかりでしょ?」
「なーんだ、てっきり昼餉だって教えに来てくれたのかと思ったよ。ここの飯は美味いからさ」
「そりゃあ、なんてったってお千さん達が作ってるからねー」
「侑果もだろ?」
「私はちょっと手伝ってるだけだよ」

「アニキー!」


向かいの廊下から兵の声が聞こえてそちらを向けば、元親と兵が話しているのが見える。
着流しではなく、戦装束を着た元親の姿は見慣れているというのに、この時だけは何故か無性に嫌だと侑果は思った。
それが表情に出ていたのか、慶次はそっと声を掛ける。


「侑果」
「ん?」
「大丈夫だよ」
「…そんなに酷い顔してる?」
「んー、ちょっとな」
「そっか…」


侑果はそう言うと、また向かいの廊下を見遣る。兵と何か話しながら、元親はそのまま兵と歩いて行く。去り行くその背をただ見送った。


「あ!なあ、侑果」
「ん?」
「今度さ、城下に行こうよ!」
「…城下?」


にこりと笑ってこくこくと首を縦に振る慶次に、侑果は不思議そうに首を傾げる。


「だって、侑果はまだ一回しか行ってないんだろ?俺、よく元親と行ってたからさ、結構詳しいと思うよ?」
「あんた等二人でって…それ、いかがわしいとこじゃないの?」
「え、違う違う!普通の店だって!」
「………へえ、そう」
「本当だってば!な、夢吉?」
「キキィ、キィ!」


慌てる様子の慶次と夢吉を見ていた侑果は、つい吹き出して一しきり笑う。


「分かった分かった。冗談、って事にしといてあげるね」
「ええー!?」
「うそ、冗談だよ」
「侑果ー…」
「キィー…」


じとーっと見ていた慶次と夢吉だったが、ふうと一息をついて微笑んだ侑果に、慶次は目を丸くする。


「うん。城下、行こうね」
「まっかせときなって!」





優しい約束

100821:執筆

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