23

陽の当たりのいい部屋の縁側。
そこに立ち、庭を眺めるその背へと貞俊は声を掛けた。


「元就様、斥候から書が届きました」
「…寄越せ」
「はっ」


斥候は、先日の厳島での一件で四国土佐へ放ったものであった。
書状を受け取り、流れるように目を通していたが、とある部分で元就は目を止める。
その一件で、"宝"を持ち帰ったとされる長曾我部は、あれ以来は出航せず、近々する様子も見られない。そして同じ頃、長曾我部で"宝"と呼ばれる"侑果"という女子が、正室になる者との噂が広まっているようであった。だが、その女子の出生は全くの不明であり、ある話によれば、その女子こそが、"瀬戸海に舞い降りた宝"と噂されていると云う。
書状から目を離し、解せぬと元就は微かに眉を顰める。


「もう一つ、報せが」
「なんだ」
「派手な身なりをした長身の男が、四国へ渡航したようです。恐らく、前田の風来坊ではないかと」
「あ奴か…手間が省けた」


元就が庭へと向き直ると、太陽が雲に隠れ、辺りは陰り始める。
その時、貞俊の背に影が降り立つ。それに目を向ける事なく、元就は静かに口を開く。


「動いたか」
「はっ。
巨大な戦艦が一、安宅船が二、関船が数十。大砲を大量に所持している模様」


元就はそれを聞いて、少し考える素振りを見せ、ゆっくりと振り返って忍を見遣る。


「そなた等は引き続き、奴等から目を離すな」
「御意」
「…貞俊、そなたの方は順調か」
「はい、滞りなく」


薄暗くなった庭へと向き直ると、風が吹き抜けていく。風に煽られた書状が、かさりと音を立てて揺れ動いた。
雲の切れ目から漏れた陽光が庭を照らし、辺りは明るさを取り戻す。


「……期は熟した」


僅かに細めたその切れ長の双眸は先程以上に鋭さを持っていた。




――――――


ドン、ドン、ドンと並んだ大砲が順に火を噴く。落ちた砲弾により、一定間隔に水柱が上がった。


「これで準備万端だね」


それを満足気に眺め、先の海へと視線を移す。
柔らかい声色とは裏腹に、その双眸から鋭い光が放っていた。


「中国も四国も、瀬戸海も―――これで僕達の物だ」





水面下で動く影



※関船(せきふね)…小回りのきく小振りな和船。
※安宅船(あたかぶね)…大きな箱状の和船。3で毛利軍が乗っている船。
ちなみに、戦艦とは鉄鋼で囲っているような頑丈な船としています。
100820:執筆

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