18

「お早うございます、侑果様」
「ん…おはようございます、お千さん」


布団で伸びを一つして、侑果は上半身を起こすと、付き侍女となった千が微笑む。それを寝ぼけた頭で、綺麗だなあと侑果はへらりと笑みを返した。
――昨夜。
着飾らされた侑果は、千達に連れられて大広間へ向かった。
大広間には、老臣方を含めた家臣達と兵士達がずらりと並んでおり、それに侑果が緊張して半ば呆然としてしまったのは言うまでもない。
宴自体は楽しかったのだが、妙にへり下った老臣方はなかなか離してくれず、酔いの回った兵士達に絡まれ、気付いた親貞が助けてくれて、なんとか元親の下に避難したのである。だが、その元親も見慣れない侑果の姿に緊張していた事を知る由もない。


「元親様から御召し物を頂きましたので、そちらに着替えましょうか」
「御召し物ですか…?」
「はい、こちらでございます」


千が出したのはずらりと並んだ、藤色を始めとして、桃色や赤に黄、橙の花柄尽くしの色鮮やかな着物や帯だった。
現代の服のままでは浮いてしまうとは分かっていたものの、数々の可愛らしい着物達に侑果は苦笑を浮かべるしかなかった。


「あの…お千さん、袴とかあります?」
「袴ですか?」
「こういう桃色とかの可愛らしいのはどうも苦手でして…ほら、動きやすい方がいいですし、ね?」
「そうですね…元親様と城内を回るのであれば、些か動き難いかもしれませんねぇ」


さらりとそう告げた千の言葉を敢えて聞き流し、せっかく貰ったんだから汚したくないとか礼装にとあれこれ言い、赤紫の着物に灰色の袴を着る事にした。
千に案内され、皆と朝餉の待つ大広間へと向かう。途中で親泰と会い、千と別れて親泰と大広間に向かえば、賑やかな朝餉の時が流れていた。
親貞を始めとする家臣団や老臣方などが昨夜と同じように、御膳を前にずらりと並んでいる。
長曾我部軍では宴だけでなく、普段から皆と大広間でこうして食事をするのが決まりになっていた。本来、君主は別に摂るのが普通だが、元親は"野郎共も家族だから"と言い、このような形になったという。


「「お早うごぜえます、アニキ!」」
「おう!野郎共、今日も気合い入れてけよ!」
「「アニキー!」」


上座に腰を下ろした元親を見れば、灰色というよりは鉛色に近いその隻眼と視線が合う。
着流し姿という、船ではあまり見なかった元親の格好と、船と変わらない賑やかな大広間の空気に、侑果はなんだか眠気なんて吹っ飛んだような気がした。


「おはよう、元親様」





城での朝


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