16

「そういう事でしたか…」


家臣団を背後にずらりと従えながら、親貞は溜め息混じりに言った。誤解の解けた様子に、帰還した一行が一様に安堵の溜息をつく。
だが、侑果は瞬きを繰り返しながら、不思議そうに親貞を見る。


「あの、信じてくれるんですか?」


そんな侑果の言葉に、親貞はふ、と微笑む。


「勿論です。
貴女が忍や間者ならば、兄上も親泰もとうに気付いておりましょう」


親貞の言葉に、侑果は右隣にいる親泰と上座の元親をちらりと見る。
忍を置かないこの軍だろうと、他国からの忍に敏感な筈がない。寧ろ置かないからこそ、忍に関する警戒は非常に強い。


「その証拠である品も、日ノ本の今日の技術ではなく、技術に長けた南蛮でも到底不可能な代物……貴女が何百年後という未来から来たというのも頷けましょう」


そう言った親貞は、証拠品として目の前に置かれた携帯電話へと手を伸ばす。
閉じられた携帯電話に付けられている、七鳩酢草の家紋を指でなぞるように撫でた。


「そして、貴女自身も我が長曾我部に対して、特別な何かを持っているようだ」


並んでいる毛利の家紋についてもまた同じでしょう、と続ける。
侑果はそれに目を見開くと、はにかみながら笑みを返す。それを見た親貞は、上座に座る元親へ視線を移した。


「兄上、如何致すおつもりで?」


それを聞いて元親は侑果を見て、親貞に視線を移す。


「此処に置く。
当然だが、侑果に宛てはねぇからな。あの小煩い爺共には、ちっとは大袈裟に言っといても構やしねぇよ」
「では、そちらには私から上手くお伝え致そう」
「頼んだぜ、親貞」
「承知」

「…あの、」


そう言った二人に、困ったような表情した侑果が口を挟む。


「どうした?」
「すごく有り難いのですが…その話し合いに私も参加していいでしょうか?」
「何故?」


眉を顰める親貞に侑果は少し気を圧されたが、拳を握って耐える。


「老臣方はとても気難しい方々です。話次第では貴女の身が危うくなりますよ」
「ですが…私についての話し合いに、私が居ないのでは余計疑われてしまうと思うんです」
「だが、」
「余計な事は言うつもりはありません。元親様の顔に泥を塗るような事も決して、」


「お待ち下さいませ」


凛とした高めの声が響く。
すると障子が静かにするすると開いていき、一人の女人が入って来た。


「お声も掛けず、突然お入り致しまして申し訳ございませぬ」


女人が座って深く礼をすると、元親は少し目を丸くし、親貞の後ろに控えていた孝頼が口元を引き攣らせる。それを余所に、にこりと微笑んで、女人は侑果を見遣った。


「申し遅れました。
私はこの城の侍女頭をしている、千と申しまする」
「あ、侑果と申します」
「侑果様、御心配をなさる必要などありませぬ。
老臣方ならば、この千めにお任せ下さいませ」






侍女頭、お千


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