15

「親貞様、元親様が富嶽からこちらへ向かっているとの報せが」


紙に滑らせていた筆を止め、孝頼の方を向いて目を丸くする。


「誠か?」
「はい、この通りでございます」


孝頼が障子を開けると、庭の木に留まっていた鸚鵡が気付いて、ひらりと親貞の肩へ留まる。


「チカサダ、チカサダ!カエッタ、タダイマ!」
「お帰り。さて、皆で出迎えてやらねばな」
「ご安心下され。もう皆に広まり、既に城門へ集まっております」


孝頼の言葉に暫く瞬きを繰り返し、親貞は柔らかく笑った。
海賊として奔放する主君ではあるものの、この地で元親を慕わない者など居なかった。海賊として大海原に居る時も単なる息抜きではなく、主に賊討伐や沿岸に面した町村の視察を行っているのだ。四国内部だけでなく、その周辺地の情勢をも把握しているのである。城に留まる時もまた同じで、元親自ら行動する事が多い。その姿勢は民をも動かし、四国制定したこの地では誰も彼を咎める者は居ない。
鸚鵡を撫でて、立ち上がる親貞に続いて孝頼も立ち上がった。




――――――


城門に向かった二人の目には、にかりと笑う実兄とその隣には見慣れない娘が立っていた。
これは何かの冗談かと、親貞は眩暈のしてきた頭で思う。


「兄上、こちらの方は一体…?」
「あ、ああ…いや、その…な」
「……兄上?」


視線を泳がせて、気まずそうな表情をした元親から親泰に視線を変える。だが、親泰も知らなかったようで、驚いたように目を丸くして、慌てて元親を見遣った。
なんだか嫌な予感がする、それもとてつもなく…と親貞が思った時。大人しく親貞の肩に留まっていた鸚鵡が、ひらりと娘の肩へと飛び移った。


「ユウカハ、オタカラ!モトチカノ、オタカラ!」


それを聞いて、親貞は自身の顔が引き攣るのが分かった。
そして向かいにいる娘は、驚いたように目を丸くして瞬きを繰り返している。
一国を担う将とあろう者が何処ぞの娘を攫ってくるとは…と呆れを通り越して、なんだか悲しいような情けないような気持ちになって、親貞は頭を抱えた。


「…兄上、詳しくお聞かせ願いたいのだが?」


じろりと睨むように見遣る親貞に、元親は苦笑いを返す事しか出来なかった。





波乱の帰還


top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -