14

船から降りた一行は、遥か前方に悠然と聳える山を見上げながら、海から続く砂浜の要塞を歩いていた。
久しぶりに踏みしめた陸は、柔らかく温かい砂浜であった。
この要塞をも抜けて、更に川を渡ったところの岡豊山。そこは長曾我部軍の本拠地であり、元親の居城でもある岡豊城という山城が建っている。
歩き難い高低差のある砂浜には、多数の柵が設置されており、あちこちに並んでいる大砲(おおづつ)は、船に積まれていたものよりも遥かに大きく、辺りは微かに火薬の匂いが漂っていた。


「此処は"富嶽"と言ってな、数十の大砲を完備した要塞だ。
そうだな、この土佐を守る楯ってとこだな」
「…ふがく」


鸚鵡返しのように呟く内心で、"戦場"だなと侑果は思う。
戦になれば、毎日整備されたオブジェのような大砲は殺戮兵器と化し、波が打ち寄せるこの砂浜も地獄絵図と化してしまう。
何も無ければ、きっとここは綺麗な砂浜だったのに。目の前を歩くその手に握るものが槍じゃなければ良いのに。
そう思ってしまうのは、平和ボケした戦を知らぬ現代人だからなんだろうと侑果はぼんやりを眺める。


「あ?なんだ、親の兄貴もう帰ったのか?」


高台にある一際大きな大砲の横から、鼠色のバンダナを巻いた男がひょっこりと顔を出した。
赤紫色の羽織から覗く、日に焼けた褐色の肌と鋭い双眸は、柄の悪さを際立たせている。
男を見上げた元親はにかりと笑う。


「お、弥九郎か。今帰ったぜ!」
「随分早ぇな…今日、槍が降んじゃねぇのか?」
「降らねぇよ!」


そう言いながら、快晴の空を仰ぎ見たこの青年は、長曾我部家の四男、島 親益である。
ふと侑果と目が合い、親益は鋭い双眸を更に細めた。


「……誰、その変な女」
「…え、変!?」
「お、やっぱり弥九郎もそう思ったか」
「ちょっ、親泰?やっぱりって何?」


親益は、からからと笑う親泰を睨む侑果を眺めていると、また侑果と視線が合う。


「私、侑果と申します」
「…俺は、島弥九郎親益。そこの馬鹿兄貴の三番目の義弟だ」


こちらこそ、よろしくお願いしますとにこりと笑った侑果に、親益が驚いたように少し目を見開いた。


「……ああ。
あ、泰の兄貴。明後日にでも船に積んだ大砲の整備すっから、それまでに荷物は運び出しといてくれな」
「おう、伝えとく」
「弥九郎、お前も戻るか?」
「いーや。俺はどっかの馬鹿兄貴と違って真面目だからな、残ってる仕事を片付けてから戻んぜ」
「…おい、それって俺の事か」
「へえ、案外自覚してんだな」
「コラァ!弥九郎!」
「うるっせぇな…いいからさっさと行けよ、馬鹿兄貴」


しっしっと追い払うような手振りをして、親益は高台の大砲へ引っ込んだ。
親泰が何やら指示をしている傍で、全く…と元親は少し呆れたように溜め息をついて高台を見上げる。侑果も同じように見上げて、可愛い弟さんだねと言えば、だろ?と元親は嬉しそうに笑った。





砂浜の要塞


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