13

元親と侑果が甲板で話している頃。
昨夜の見張り番――夜間当番であった親泰と数人の船員達が、少し遅めの朝餉を摂っていた。


「まさか船でこんな美味い飯が食えるとは…!」
「流石、アネゴ!」
「俺達じゃ絶対作れねぇよ!」


口々に言いながら、嬉々として白米をかき込んでいく部下達を横目に、親泰は箸に取った浅漬けへと目を落とす。
栄養を考えた献立は、侑果が考えたものだった。
よく腐らせてしまう野菜などの生ものを上手く保存し、使い勝手が違うであろう調理法でもなんとか上手く作っている。
城の炊事をしている侍女達は、夫も子もいる者達ばかりで、只でさえ数少ない侍女達を長期間も船には乗せられない。すると必然的に、船の炊事は船員達の当番制になってしまう。兵糧として沢山積んでいたとしても、それを調理出来るかどうかは別問題で、結局同じものだったり質素なものになってしまうのが実情であった。
そう考えると、確かに有り難いもんだなと親泰は思いながら、口に放り込んで咀嚼する。


「アニキ、アネゴのこと何て言うんすかねぇ…」
「そりゃ普通に言うだろ」
「でも老臣方から何を言われる事か…」
「今回だって、城を出て来たのはどっかのお武家の娘さんと縁談が出たからですぜ?」
「まあ、あれはするって決まった訳じゃなかったけどな」
「こう淑やかーなお武家の娘さんよりも、アニキにはアネゴみたいな方が良いと思いますけどねぇ…」
「お前、そりゃあアネゴが淑やかじゃねぇって事かい?」
「いやいや、そうじゃ「すみませんねぇ、淑やかじゃなくてー」
「ア、アアアアネゴ!?」


いつの間にか、船内へと戻ってきていた侑果に、船員達は驚いて青ざめる。
ふふふ、とえらくにこやかに微笑みながら、空になった皿を片付けて持っていく侑果を眺めて、正室か、と親泰は内心呟く。
侑果を居城である岡豊城に連れて帰り、上手く言いくるめさえすれば、老臣達も大人しくはなるだろう。
それに、女である以上は身分が限られてくる。此処で身寄りのない侑果の身分を確立させるには、元親の正室候補か何かにするのが一番手っ取り早く、一番の得策である。それは、元親が判断する事ではあるが、余り下手に言えば、侑果は此処で追い出され兼ねなくなるのだ。
だが、元親の周囲は男達ばかりであり、元親自身も身を固めるつもりはなく、縁談は悉く破談にしている。そんな元親が侑果を連れて来たのなら、老臣達にとっても万々歳だろう。それだけ長曾我部家としても、切羽詰まっているのが現状だった。
果たしてどう言いくるめるのかは、弁の立つ親貞や孝頼を頼らざる負えないが、状況を知らない二人には難しいところでもある。
それでも、親泰は其れほど心配していなかった。先日、元親が書状を送ったと聞いていたし、あの二人なら分かってくれるだろうという思いがあったからだ。
親泰はにやりと笑って、まだ賑やかな侑果達を見遣った。


「そうだよなあ。お前とは正反対の淑やかで大人しい女じゃあ、親兄も持て余しちまうだろうしなー」
「ねえ親泰、それ褒めてるの?貶してるの?」
「褒めてるだろ」
「そっか、貶してんのね」





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