12

「土佐?」


船の朝はとても早い。
この船で生活して、侑果の朝も随分と早くなっていた。
圏外ではあるものの、何故だか電池の減らない携帯電話のアラームで、ぼんやり空が白み始める四時に起き、船の厨へと向かう。それが、今の侑果の朝である。
――先日、たまたま当番だった親泰の夕餉の手伝いをした、あの後。
船員達の切実な要望により、侑果は飯炊き係となった。
最初は夕食だけだったのだが、日中も暇だから三食でいいと言うも、なにやら心配そうな元親が中々頭を縦に振らず、なんとかやっと承諾を得たのである。
勿論、たった一人ではないのだが、やはり百数十人に上る船員の分を作るとなれば、人数が人数なだけに陽が昇り始めた頃に起きなければ、到底間に合わない。
それでも、皆が喜んで食べてくれるのが嬉しいという思いが、侑果をそれほど苦に感じさせなかった。

そして、朝の七時頃。
見張り番だった親泰達のご飯を用意し終えたところで、ちょうど元親に呼ばれた。甲板で上げた声が冒頭のそれである。


「ああ。城にいる爺共が煩くてよ、たまには早く帰らねぇとな」
「そっか。城かあ、本物って初めてかもなあ…」
「見た事ねぇのか?」
「無くも無いんだけど…残ってる城ってのは大概、火事やなんかで燃えちゃったりしてて、再建や補修で現代的な造りだったりするんだよね…」
「へえ…なら、楽しみにしておけよ。土佐の城も城下街もすげぇぜ?」


城や城下街を誇るように言う元親に、やはり一国の主なんだなと侑果は口元を緩めて思う。


「そうなんだ…城下街って、一回は見てみたかったんだよね」
「見るのもいいが…そうだな、城に着いたら連れてってやるぜ」
「ほんと?」
「ああ」
「楽しみにしてる!」


そう言って、にこりと笑った侑果の頭を元親はぽんぽんと優しく撫でた。


「俺は船首にいるからな。なんかあったら呼べよ」
「うん。あ、片付け残ってたんだ…じゃあ後でね」
「おう」


ぱたぱたと走っていく侑果の背中を見送り、元親は朝陽の眩しい空を見上げる。
快晴、南向きの風。
それは初夏を告げるようで、はためく白い帆に家紋が波立つ。
踵を返して、船首へと足を進めた。





一日を告げる陽光


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