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深い溜め息をついて、庭に咲く紫陽花を触れると、二、三日降り続けていた雨の水滴が滴る。
梅雨はとうに明けた筈だったが、この男の表情は硬かった。
すると、こちらに向かって足音が近付く。


「こちらに居られましたか。親貞様、お早うございます」
「お早うございます。
珍しいな、孝頼殿がこんな裏庭に参られるとは」
「いえ、親貞様にお伝えしなければならない事がございまして」


柔らかく微笑むのは先代、国親の代から仕えている吉田 孝頼である。
少々顔色が良くないのは、今頃船旅を満喫している現国主が残した、政務の片割れを担っている為だろう。そんな、疲れが見え隠れしている孝頼ではあるが、少し安堵の色を浮かべている。
それを見て、長曾我部家次男、吉良 親貞は紫陽花から手を離した。


「…兄上、か」
「ええ、あと五日もすれば着きましょう。何やら良い宝が手に入った様で宴の準備をしておけ、とのことです」
「全く…それでも、いつもより早い御帰還で何よりだが」


呆れたように溜息混じりで言った親貞に、孝頼は苦笑を零す。
元親が城を空ける時は、必ずといっていい程に親貞が残る。親貞自身、それほど船旅が好きではないという事でもあるが、元親が親貞に城を任せる理由はそれだけではなかった。
確かに元親は統率力など人の上に立つだけの事はあるが、船旅といった自由を好み、未だに正室すら迎えていない。それを昔から仕える老臣達が黙っておく筈もなかった。
その為、兄である元親の右腕で、長曾我部軍の重鎮である親貞が、抑える為に残っている。それは親貞自身も理解の上…なのだが、当主である元親に少しは落ち着いて貰いたいのが本心であった。


「仕方ない、準備をするとしよう。済まないが孝頼殿、酒の手配をお願いしてもいいだろうか?」
「ええ、承知致しました」


暁の土佐、岡豊城に届いた書状には、その"宝"の詳細ついて何も書かれていなかった。





雨上がりの紫陽花


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