08

「あっはっはっはっは!」

腹を抱えて笑っている、銀髪を結ったこの男は、長曾我部家三男、香宗我部 親泰。
そう、彼は倒れた侑果を世話したり元親の謁見に付き添っていた、あの親泰である。あれから、彼の人懐っこい性格と歳が近いせいか、直ぐに打ち解けていた。
そんな副船長、親泰の執務室兼自室に、侑果がお邪魔しているわけなのだが。

「そんなに面白いかなあ」
「あの親兄を…ぶはっ!」
「さっき、ここへ来る前にすれ違ったんだけど、なんかもう諦めたみたいだったよ」
「そりゃあ、親兄が女相手に本気で怒れねぇよなー」
「怒ったら恐い?」
「…恐ぇよ。暫くは、あの鎖の音を聞くだけでもびびる」
「そんなに!?」

侑果が思わず、散らばっていた書籍を片付ける手を止めて見やれば、親泰はどこか遠い目をしている。その表情を見て、何をしたんだろう…と侑果は思ったが、聞いてはいけない気がして口には出さなかった。

「そこにある海図取ってくれ」
「これ?」
「そうそれ。ありがとな」

何やら細かく書き込まれた海図を親泰に渡す。
部屋には、書籍が乱雑に置かれていて、海図もあちこちに散乱している。そんな中の奥にある机で、親泰は執務をしており、隣接した部屋は寝室だそうだが、あまり使っている様子はなかった。

「げ、今日飯番じゃねぇか…」
「めしばん?」
「飯炊き当番って事だよ」
「へえー当番制なんだ」
「ああ。親兄もやる時あるぜ」
「え、作れるの?」
「お造りくらいはな」
「それ魚捌くだけじゃん」
「お前な…鮪や鰹とかになると、捌くのも結構大変なんだぞ?」
「分かるけど…まあでも捌けそうだよね」
「鯨だって捌けるぜ。俺は手伝うくらいだけどな」
「それ見てみたいなあ」

なかなか見れるものじゃないよねと呟く侑果を見て、親泰は何か思い付いたように声を上げる。

「あ、そうだ!ちょっと来い!」



――――――


「なんで私、包丁を持たされてるの?」

船の厨(くりや)。
侑果は親泰について、厨の中の案内を受けていたはずだったのだが、いつの間にか前掛けを渡され、数人の船員達に混ざって、まな板を前に包丁を握っていた。

「まあまあ、こういうのも楽しいだろ?」
「物珍しくて楽しいけど…普通、こんな新人に手伝わせるのは御膳を運んだりするとかじゃなくて?」
「そこの台に並べとけば、各自で勝手に取ってくからいいんだよ」
「なにそれ、バイキング!?」

は?ばいき…?とか言ってる親泰を余所に、侑果は溜息をついて、案外豊富に揃っている材料を眺める。
みんなの口に合うものと考えれば、やはり馴染みのもの――和食がいいだろう。敢えて、洋食を作った方がいいかなとも思ったが、それにしては幾つか材料が足りない。代わりに違う材料を使ってもできない事はないとは思うが、この時代の調理道具の扱い方を知らないこともあり、やはり和食にする事にした。
そんな侑果を見兼ねてか、親泰が声を掛ける。

「なんか適当に作っときゃいいんだって。味さえ調整すりゃ大抵は食うし」
「…それもどうなの。
言っとくけど、あんまり期待しないでね?」
「分かった分かった」




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