05

「空から、ねぇ…」

そう独り言のように呟いた元親は、大きな机に広げた地図に目を落とす訳でもなく、止まり木で毛繕いをする鸚鵡を眺める。

「なんでお前は知ってたんだ?」

元親の言葉に返す筈もなく、鸚鵡はせっせと毛繕いをしている。
――あの後。
落ちて来た"人"は、波に呑まれる事なく救助され、船へと引き上げられて、女だと分かった。その間も鸚鵡はしきりに、"オタカラ"と鳴いていたのだ。
この鸚鵡が"女"と"お宝"を間違えている訳でも、言葉を知らない訳でもない。元親が驚くほどに、この賢い鸚鵡はどんな些細な言葉でも覚え、意味さえ教えれば上手く使い分けることもできる。
もし落下してくるのを見ていたのならば、"オタカラ"とは言わずに"ヒト"か、あるいは"ムスメ"と言っただろう。それなのに、鸚鵡はただ"オタカラ"が"オチテクル"と告げた。
実際、野性の勘なのか分からないが、宝の匂いを嗅ぎとり、誘導するかのように教えてくれることは今に始まったことではなかったし、そういう時は手応えのあるものばかりであった。そんな鸚鵡を、元親は間違えているとは思えなかったのだ。
だとすれば、どこからか落ちて来た女は"オタカラ"という事になるだろう。
どうしたもんか、と深い溜息をついて、近くにあった墨のついていない細筆を手に取る。
どこかの忍かと元親は思ったが、それにしてはあまりにも丸腰だ。武器といえるようなものは見当たらず、纏っているものは、見た事のないような作りと触れた事のないような滑らかな肌触りをしていた。南蛮の舶来品をよく知る元親でも、どれも目にした事がないものばかりであった。

「……宝、か」

あれから、何一つ落ちて来るものもない。
元親にはその女――侑果を、鸚鵡のいう、"宝"かどうか解りかねていた。
細筆をくるくると回していると、鸚鵡が止まり木から離れ、興奮しながら飛び回り始める。

「モトチカ、オタカラ!オタカラ!」
「おいおい、落ち着け。お前の言うお宝ってなんなんだよ」
「ユウカ!モトチカノ、オタカラ!」
「俺の、宝……?」

かたり、と筆が手から滑り落ちて机の上に転がる。
呆然とする元親の耳に、男しかいない船内で女の声が聞こえてくる。時折、親泰の声が聞こえるという事は、どうやら目が覚めたようだ。
二人の声と足音が近付いてくるの聞きながら、肩に留まった鸚鵡を撫でる。
少し開けている雨戸の隙間から入った風に、広げていた地図が少し霹いた。




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