04

ゆらゆらと揺り篭に揺られるような感覚に、何処からか潮の香りが鼻を擽っていく。
浮上するように緩やかに意識が戻り、ゆっくりと瞼を開ける。
そこには、見慣れない木目の天井が映った。
ぼんやりと眺めていると、風がふわりと頬を撫でていき、微かに身震いをする。部屋を見回しながら、上半身を起こして、腕を抱くように摩った。
ここ、どこ――…?と、気を失う前の記憶を探してみたが、家を出るあたりから酷く曖昧になっていて、侑果は眉を寄せる。
近づいてくる足音が聞こえ、大きな人影が障子の前に止まるとすっと開いた。

「お、目ぇ覚めたか」

起きていると思っていなかったのか、一瞬目を見開いた顔をしたその男は、にかりと笑って安堵した表情を見せた。
男のその、やや長めの襟足を結った銀色の髪が、絹のようにあまりに綺麗で、侑果は警戒しながらも見惚れていた。
ずい、と目の前に手拭いが差し出される。

「ほら、髪濡れてるの気持ち悪いだろ」
「あ、ありがとうございます…」

男から手拭いを受け取り、濡れて張り付いている自分の髪を拭う。いつの間にこんなに濡れているのか、侑果にはさっぱり分からなかった。
男は腰を下ろし、胡座かいて侑果が髪を拭くのを眺める。

「具合はどうだ?」
「?大丈夫です」
「そっか、少し水飲んだみてぇだったからさ」
「そうですか………え?」
「?どうかしたか?」


―――水を、飲んだ?いつ?


「あの、すみません。ここはど「親泰様、」

侑果の言葉を遮るように、勢いよく障子が開いた。

「どうかしたか?」
「ああ!目が覚めたんすね!
親泰様、目が覚めたならアニキが連れて来い、と」


紫色の軽装をした男は、侑果を見て嬉しそうに声を上げたが、当の本人である侑果は状況が全く飲み込めずに目を丸くする。
だが、その男から聞き覚えのある言葉が聞こえ、少し首を傾げたところで、銀髪の男が纏っている羽織の胸元についた紋に気付く。
紋と銀髪の男を交互に見遣って、侑果は目を見開いて固まった。

「おー分かった。
悪いな、お前行け……おい、大丈夫か?」

親泰と呼ばれた男と、呼びに来た男が心配そうに侑果を見つめる。
呆然とする侑果の肩に掛かった手拭いが、障子から入った風にふわりと靡いた。




top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -