見張りの船員が指した方向に向いた船員達も、どよめきが上がる。
薄紫色の服を着た、人影が落ちてくるのが分かった。
「野郎共、直ぐに小舟を二隻出せ!急げ!」
「「「へい!」」」
慌ただしく船員達が駆けていく中、元親は落ちてくるそれを見つめて、内心舌打ちをする。
小島があちこちに点在し、潮の流れが速く荒いこの瀬戸海では、人ひとりなど容易く波に呑み込まれてしまうだろう。
だが、落ちる速度は速まっていくばかりで間に合いそうにない。
海面にあと数メートルに差し掛かったところで、それを守るように黄緑色の光が包む。
それは海面とぶつかり合い、爆風を起こした。
「「「うわああああ!」」」
「くっ…!」
―――――
その海上から程近い、大きな朱色の鳥居が見える、厳島。
そこには、一人の男が天を静かに崇めていた。
閉じていた双眸をゆっくり開くと、先で何かが大きく光り、しばらくして突風が吹き抜ける。
「っ!」
男は右腕を上げて袖で顔を防ぐと、風は先ほどと変わらない微風へと落ち着きを取り戻す。荒れ立った波も穏やかに揺れていた。
腕を下ろし、男はその方を見つめていると、慣れた気配が足早に近付く。それは背後で止まり、男の背へと声を掛けた。
「失礼致します、御無事でございますか!」
「フン、大事ない。
それよりも…先の風、近いな」
「はい。ですが可笑しいですね、この近辺に戦などない筈なのですが…」
怪訝そうな家臣の言葉に、先程光った方向を見つめたまま、静かに口を開いた。
「直ぐに何人か放て」
「はっ」
家臣が去ると、男は正面を見据えて忌ま忌ましそうに呟いた。
「…………長曾我部、元親……」