1■th












高専の正門に入るには、通常はやたら長い階段を登りきる必要がある。寺か神社かよと悟はよく愚痴をこぼす。傑も言葉にしないが正直疲れた時にこの階段はしんどかった。だからといって、文句を言っても階段は消えないし、呪霊に乗って行くわけにもいかない。ブツブツと文句を言いながらも、自分の足で登って行くしかないのだ。
もう直ぐ常に気を張っていた任務が終わるので、はやく登り切ってしまいたいと思いながらも、女性が二人もいて置いて行くわけにはいかなかった。なによりも護衛対象だ。
沖縄楽しかったなという現実逃避まがいの雑談をしながら何とか階段を登り、あと数段といったところで槭が足を止めた。

「槭?」

槭は帰りの飛行機からあからさまに口数が減っていた。顔も強張っているし、随分と気も張っている様子だった。疲れているのだろうか。傑も悟も疲れているのでお互い様だが。
槭とは同級生だがあまり積極的に会話をしているわけではない。ただ仲が悪いわけでもないし、話しければノリ良く返してくれる。一方で補助監督からの評判はあまり良くない。横柄な態度をとったりしているわけでもなく、単純に反応が薄かったり、聞いているか聞いていないのか分からない等、それが補助監督を下に見ていると捉えられているらしい。もう少し愛想良くしなさいと言ったら、それに槭は困った顔をして、それでいいのだとこぼした。
『俺が嫌われて、一般的に言う不幸になればなるほど、次へ繋がるから』
一体何を言っているのか意味が分からなかった、槭は不幸を自ら生み出している?何のため?槭のいう、”次”とは?

「どうしたんじゃ?もう直ぐじゃろう?」
「お疲れになっているのでしょうか」

天内と黒井が心配そうに槭を見る。自分達が振り回して槭を疲れさせたと思ったのだろう。間違っていないが、そんな気遣いは不要だ。傑達は、そうするように天元からいわれている。
能力の長時間使用で疲労困憊の悟が眉間に皺を寄せて、槭の横を通り抜ける。

「おい、槭。はやく行こうぜ」
「なぁ、悟」

槭が悟の制服の背をがしっと掴んだ。急に勢いを削がれた悟は顔を顰めて槭を数段上から見下ろした。槭は階段を見下ろして顔を上げずに、しかし声音だけはやたら明るく、まるで元気を絞り出したような声で喋る。

「もう少しだけ、遊んでかないか?」
「ああ!?」
「槭?」

疲労困憊の悟に、そんなことをよく言える。槭も呪術師だ。悟の疲労はよく理解しているはずで、このタイミングでその言葉は違和感しか抱かない。舌打ちをして、今にも手が出そうな悟を制して、傑はそっと槭の手を悟から離させた。そのまま槭の手を取り背を撫でてこの違和感だらけの行動の理由を問う。

「槭、どうした?沖縄旅行を満喫して、遊ぶのが楽しかったのは分かるけど」
「……」
「これは任務だ。彼女を送り届けないといけない」
「分かってる!分かってるけど!」
「槭!!!!」
「分かってる!悟が限界なのは、分かってるけど!!!」

槭は駄々をこねるようにその場に立ち尽くす。”分かっている”・”駄目”という言葉を繰り返すだけで槭はどれだけ傑が宥めても理由を口にしようとはしなかった。最初は槭に理由を問おうとした傑だったが、親友の磨耗具合と、自身も疲れていたので流石に待てなくなった。槭の手を離して、傑も諦めて階段を上がる。

「槭の言う通り悟はそろそろ限界なんだ。だから、行くよ」
「チッ」

何なんだよと、悟が舌打ち混じりに零して、残りの数段を一気に駆け上がった。

「駄目だって!待てよ!!!」

槭が追いかけてくるのを感じる。何だ、動けるのか。つまり今までのは演技だったのかと、どっと疲れを感じながら、高専の敷地内、つまり天元の結界内に足を踏み入れた。此処までくればもう大丈夫だ。此処は安全。此処は天元に護られている。

「悟がもう何度も死ぬ所を見たくなーーーーーッ、悟!!!!」

槭の親友を呼ぶ声と、親友の胸から刃物が突き出たのは同じタイミングだった。親友のその後ろに、見慣れない男。呆気にとられる傑達と、男を見下ろして眼を見張る親友。

「アンタ、どっかで会ったか?」
「気にすんな。俺も苦手だ。男の名前を覚えんのは」


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