1st









呪術高専に所属する夏油傑は学生らしく勉学に励む一方で、大人に混じり高専からの任務も熟す。今回も同級生と共に任務にあたるように担任の夜蛾から指示が下され、任務内容を説明されていた。呪霊を調査したり祓ったりする通常の任務とは違う、星漿体を扱う任務。普段生活する上では触れることがない天元と星漿体についての知識を、同じく任務にあたる同級生の悟は独自にデジモンに置き換えることで理解していた。それとは別に、もう一人が完全に置いてきぼりにされているのを傑は視界の端に捉えてスッと手を挙げた。

「夜蛾先生」
「どうした夏油」

やたら静かで話に入ってこないなとは思っていたが。

「タイムを要求します。槭がついてこれていません」

隣の席の槭は完全にアホ面を晒していた。半端に開いた口に、頭の上にクエスチョンマークを並べている。一ミリも理解できていないだろうと思いながらも、念のため槭へ顔を向けて確認する。

「今の話分かったかい?」
「自慢じゃねーがさっっっぱり分っかんねーわ!なんだっけ?あれ、はっぱのやつ!みどりの!」
「………もしかして葉緑体のことかな?」
「そうそう、それそれ!それの親戚?そのせーしょーたいってやつ!はっぱの仲間?」
「ギャハハ!!!相変わらずバカだな槭!!!!」

頭が痛くなって額を抑える。夜蛾も同じように頭をおさえており、悟だけが椅子からひっくり返りそうなほど腹を抱えて槭を指差して大口開けて笑っていた。それに槭は机にダンっと拳を強く打ち付けて声を荒げる。

「しゃーないじゃん!わかんねーんだし!!!」
「槭、一体何処からついて来られてなかったんだ?」
「最初から?二人はなんか真剣に解り合った顔してっけど俺は全くついていけてねェデスヨ」

夜蛾の問いかけに使い慣れない敬語を辿々しくつけながら槭が首を傾げた。何度もブリーチを重ねて金髪に染められた髪からも分かるように見た目DQNヤンキーでしかない槭は、頭も見た目を裏切らない空っぽさだ。その空っぽの頭のアホっぽい金髪はカチューシャで留められており、バカっぽさが滲み出てるので止めるように言っているのだが槭にもこだわりがあるのかやめない。
悟が机に頬杖ついて槭をにやにやと笑う。

「槭はマジで頭悪ィからなー。俺らの中で赤点とんのお前ぐらいよ」

悟の言う通り、幾度も指導をくらっている問題児ばかりの学年ではあるが、それぞれ要領も物覚えも良かった。その中で唯一、落ちこぼれなのが槭だった。呪術界の至宝・六眼と無限を持つ五条悟、希少な呪術・呪霊操術を持つ夏油傑、そして反転術式を感覚でこなす家入硝子。それぞれが天才だと褒め称えられる中で、槭だけが何も持たなかった。平凡な呪力量に、小学生の方が賢いのではと思わせる頭の出来。ただ、その身に持つ術式は一風変わったものであると悟は以前言っていたが、今の所その術式が開花したことはない。この学年の、お荷物だとも影で囁かれていた。けれど槭はそれらを持ち前の空っぽな頭で「俺馬鹿だから嫌味の意味も分かんねーわ」と馬鹿を逆手にとって一蹴していた。
今も悟に馬鹿にされてなお、槭は全く気にした様子はなく、むしろ悟の顔をマジマジと見て、そして傑の顔をマジマジと見始めた。どうしたのかと首を傾げて見せると、ハッと閃いたような表情を浮かべる。

「もしかして………ッッッ…顔の良さが頭に比例している…?!?!」
「ブハッ」
「何でそうなるんだい」

悟の吹き出すような汚い笑い声と同時に、傑は冷静なツッコミを返す。そんなわけがあるかと呆れる傑を他所に、槭は慌てたように自分の顔を手で覆いながら立ち上がって叫んだ。

「鏡ぃ!鏡持ってきてぇ!!!俺の顔を今すぐ確認させてぇ!!!!」
「ブハハハハ!!マジでお前バカ!!!!!」
「硝子ぉおおおおお!!!鏡貸してぇえええ!!!!!!」

そうして教室から逃げ出している硝子の名を叫びながら槭も姿を消した。嵐が去った室内。悟だけが笑い転げ、そのまま椅子から転げ落ちていた。槭が消えていった教室のドアから視線を傑へと向ける夜蛾。

「夏油」
「……槭には後で説明しておきます」
「はぁー笑った……マジで槭やばいわ……腹捩れる………」

教師が説明することを諦めて、傑に託してきた。これは入学した直後からよくあることなのでもう慣れっこだが、槭の成長のしなさ具合には手がかかると言わざるを得ない。はぁと深く溜息を吐いて額をおさえる横で、悟が椅子を直しながら漸く床から復活してきた。

任務前から無駄な労力をとられたが、何処かに行ってしまった槭を悟に探させて、さあ、三人で星漿体の任務だ。



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