現代







半身が蛇で、半身が人間の呪霊。見覚えしかない。
あの時間違いなくコレに関しては封じ直しをしたはずなのに、何故封印が解かれているのか。というか、この呪霊は、上層部に荊が届けたはずだ。此処にあるはずが無いのに。

「………やっぱり、俺はもう用無しか」

こぷりと、口から血が漏れ出た。胸部が痛い。肋骨か肺をやられたかもしれない。
この呪霊は今回回収する予定だった呪物とセットだ。かつて墓で目覚めて待ち構えていたのはこちらで、生得領域は呪物の力。二つで一つ。本来は二つとも回収するはずだったが、どちらも目覚めかけており本来は両方封じ直しをしたかったが荊では片方しかできず、あの時一先ずこちらのみ持ち帰った。呪物の方は余程のことがない限りひとつではなにも起きない、はずだ。
今回回収を命じられて、おかしいと思っていた。何故今更、と。だからこそ、用心のためにも会場の広さを理由に夜蛾に話をつけ人手を借りたのだが。

「嫌になるな、才能が無いってだけで………いや才能があっても爪弾きか」

膝をつく。血を失いすぎて、目眩が酷い。
シナリオとしては、回収を行うはずだった呪物の力が増幅し、呼応した呪霊が何らかの方法で封印を破り呪物と合流、回収のために偶々その場にいた荊が巻き込まれ死亡した、といったところか。こんなシナリオ誰が見たって仕組まれていることが明らかだが、そんなことはあの人たちにとって些細な問題ない。非呪術者が死んだくらい、何も問題ない。

「不用品と老害は廃棄しても廃棄しても湧いて出て来るなぁ」

荊は、自分がまっとうな人間だと思ったことなど一度もない。目的のためにたくさん殺してきたのだから、ろくな死に方をしないのも覚悟している。いつ死んだって構わない。下半身の蛇の部分を滑らせて、ずりずりと呪霊は荊に近づいてくる。

「ちょっと疲れてきたなぁ。ーーーーね、とーじくん」

横に抱えて走ってくれる人間はもういない。
荊は体格にも才能にも恵まれなかったので、二度目の封じ直しは今のコンディションでは無理だ。
生得領域がない分走って逃げればいいのだろうが、非呪術者を巻き込むわけにはいかないし、荊ももう走れそうになかった。

昔のように寝不足でも気合いでやれていた頃と違って体が言う事を聞き難くなった。見た目は若いと褒めてもらえることは多いが寄る年波には勝てない。
諦めようか。荊が頑張らなくても、現状を変えようとする人間はどの時代にも必ず現れるし、今は『最強』がいる。

いつもは最善の一手を考えるのにどうしてか今日は最悪ばかりを考えてしまう。血を失って冷静な判断ができなくなっているからだろうか。重たくなる瞼を何とかこじ開けながら、あることに気がついた。この体の重さ、血が足らないのではなく、血糖値が下がっているのでないのか。

ーーーあ、今日、おにぎり食べ忘れたかも

『ぶっ飛べ!!!!!』

強い言葉に目の前の呪霊が吹き飛んだ。そんな事ができる子は一人だけで、それに安心して、荊は体の力を抜いて、その場にパタリと倒れこむ。
荊の前に、巨大な影が二つ伸びた。

「危ないと思う前に」
「連絡しろって言ったよね」

七海と五条の言葉に思わず笑ってしまう。連絡はちゃんとした。伏黒の玉犬を撃ち抜いて消失させたのは荊だ、スマホを操作している時間がなかったので最も手っ取り早く異変を知らせる方法だと思ったのだが。そう言うことではなかったらしい。

「荊さん!!!」

顔面蒼白の伏黒が荊の背を起こして容態を確認する。昔から悪運だけは強いので、また生き延びてしまったなぁと思った。死ななくていい人が死んでしまい、死んでいい人が死なない神の気まぐれに翻弄されながら、荊は目を閉じた。

あとは才能のある子たちが頑張ってくれるだろう。





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