現代









昔から荊は棘のヒーローだ。狗巻の家は呪言師として代々続く家系で、育ても厳しい。その中で荊は棘に普通に接してくれる数少ない大人で、そして棘が辛い時に守ってくれるヒーローだった。そんな憧れの人の役に立てるのであれば、こんなに嬉しいことはない。棘はいつも以上に意気込んで仕事に取り組むつもりだった。

「棘、張り切ってんな」
「しゃけ!」
「荊さんと狗巻くんはご親戚でしたね。やはり身内の力になれるのは嬉しいのでしょう」
「しゃけしゃけ」

肯定の意というか具を口にし、指でサムズアップをする。同行する二人にも意気込みがバレバレだったようだが、隠したつもりもないので恥ずかしくは無い。
七海が言う通り、荊とは親戚だ。つまり荊も狗巻家の人間だが、呪言を持たず、そして呪術師にもならなかった。ただ国家資格をとり、呪術師と非呪術師の架け橋をして、日夜働いている。棘が幼い頃は忙しい合間に狗巻の家に戻って、棘の様子を見にきてくれた。色々と子供の好きそうなおやつを考えて買ってきてくれていたが、一人で食べるそれよりも、棘は荊がいつも手にしているコンビニのビニール袋にはいったおにぎりが好きだった。そのおにぎりだけは、荊が一緒に食べてくれ、その間お喋りをしてくれるから。呪言のコントロールができない棘が言葉を話すことは難しく、棘の全力の身振り手振りは荊にとってジェスチェーゲームのようだっただろうが、荊は察しがいいのでそう会話に苦労したことはなかった。楽しい時間、荊が会いにきてくれる日が待ち遠しくて、狗巻の厳しい躾も乗り越えられた。棘は、荊の前では子供でいられた。
その荊が棘の力を借りたいと言うのだ、呪術師として認められたようで誇らしくて、力にならない選択肢はない。

「昆布、梅」
「まぁ、そうだな。私も禪院の家にいた頃から世話になってた。…あの人は、私に対しても態度変えないし、…そもそも面倒見もいいよな」
「しゃけ」

真希も同様だろう。御三家のひとつ、禪院が出自となれば、狗巻家にも劣らぬ厳しさであっただろう。身体能力が高くとも、呪力がないとなれば尚更。しかし荊は、『そういう』のが好きだ。仕事混じりだろうが禪院の家へと足繁く通い、真希が出奔した際は、その後の高専入学まで手を貸していたらしい。子供は才能があって良いと朗らかに笑う荊はらしいといえばらしいが、棘から見て真希に対しては少し入れ込みようが過ぎる気がした。最初は男女なのもあり紫の上計画かと疑う時もあったが、実際二人がいるところを見かけたら、荊はいつも真希を懐かしそうに見ているので、違うなと直ぐに察した。荊はきっと真希通して誰かを見ているのだろう。
棘は真希から意識を外して、七海に首をかしげる。

「タラコ?」
「ええ、私も高専にいた頃からお世話になっていますよ」

特徴的なサングラスを掛け直し、七海は棘の問い掛けを肯定した。今の呪術界の若手で、荊の世話になっていない人間は殆どいないだろう。あの人はいつだって術者に献身的だ、自分の全てを捧げるほどに。

「しかし……何だか妙ですね」
「すじこ?」
「警備が手薄に感じます」

七海が立ち止まり、顎に手を当てる。棘は目を丸くして、そして周囲を見回した。確かに会場の大きさに反して人と全然すれ違わない。帳を下ろして非呪術者に術者を知覚できないようにしたが、そもそもすれ違わないのはおかしな話だ。大規模なオークションで、出品される品々も高価で希少価値が高く、参加者も有名人をはじめとして人数が多いと、事前の調べた情報では聞いていた。一般客が通らないスタッフ通路だとしても、七海の言う通り高価な品があるわりに見回りが少な過ぎる気もする。
しかしそもそも正規のオークションにすら棘は行ったことがなく、またそれは真希も同じだ。

「そうか?無駄に広いから警備が分散してるんだろ」
「そうですね、それもあり得ます。そうだと良いですが」

真希のいうことも一理ある。重要な箇所にだけ警備を固めてこんな通路にはわざわざ警備を置いてないだけかもしれない。七海は考えても仕方がない事だと一旦は納得し、また歩きだした。少なくとも伏黒から連絡がないということは、玉犬が一緒にいる荊にもなにも起こっていないということで。今は与えられた仕事をこなそうと、出品物が保管されている目的地までの道のりを急いだ。






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