現代










オークション会場ときいて伏黒は勝手に煌びやかな施設を想像していたが、連れてこられたのは港の倉庫街だった。闇オークションなのだから正規の場所で出来なくて当然だと、到着してから気づいた。有名人も多く参加しているらしく、外から見る限りセキュリティはかなり厳しそうだった。周囲を巡回するスーツにサングラスをかけた厳つい男達、出入り口らしき場所では逐一黒服の男達により招待状の有無が確認されていた。
七海と五条がルートの最終確認をしている間に狗巻と伏黒は相談して不安要素を取り除くことにした。

「荊さん」
「ツナマヨ!」
「ん?二人ともどうした?」

耳に小型のインカムをつけた荊が首を傾げる。警察側とのやりとりで使用するらしい。
伏黒は手印を組み、影から式神を呼び出す。呼応して、玉犬がずずっと地面からあらわれた。準備運動をするかのように黒い体をぶるりと震わせて、本物の犬のようにワンと鳴く。伏黒はその頭を撫でた。

「玉犬、一匹預けます。一緒に連れて行ってください。一人は…心配です」
「しゃけしゃけ」

狗巻が何度も頷く。玉犬だけでも荊を守れるぐらいには戦えるし、万一玉犬に何かあれば伏黒は直ぐに認識出来る。離れた荊の安否を確認するのにうってつけだ。荊はきょとんとして、そしてふっと笑った。

「ありがとう。じゃあ遠慮なく」

断られるかと思い、連れていかせる口実をいくつも考えていたので拍子抜けする。荊はそんな伏黒を知らず、屈んで玉犬の頭を優しく撫でた。

「よろしくね、玉犬」

ワンと玉犬が尻尾を振って返事をする。隣で狗巻がほっとしたように息を吐いた。一先ずこれで荊に何かあっても最悪は防げるだろう。
荊を心配するのは狗巻と伏黒だけではない。

「荊さん、異変を感じたら直ぐに下がってください。危ないと思ってから呼ぶのでは遅いですからね」
「荊さん、玉犬がいるからって油断しないでよ。戦えないんだからちゃんと連絡してきて」
「はいはい」

玉犬を得たことで荊が無茶をするのではないかと危惧したようで、七海と五条が畳み掛けるように荊に苦言を呈している。荊は軽い返事をしていて、到底真面目に聞いているとは言い難かった。
ふと荊がインカムに手を当てる。何か通信を受信したようで暫く地面を見て聞く姿勢に入り、そして五条達へ顔を上げた。

「俺は警察関係者の調整があるから行くね。何かあったらメッセージ飛ばすか、部下に声かけて」
「たーかーなー!」

急ぎの要件だったのか荊は足早に玉犬を連れてその場を去っていった。
なんとなく、その背が見えなくなるまで見送っていると、虎杖が伏黒に不思議そうに尋ねてくる。

「荊さんって呪術師じゃねーの?狗巻先輩の親戚なんだよな?」
「……あの人は、呪術師じゃない。呪術師の家系だからといって、必ず術者になる資格を持てるわけじゃないんだ」
「ふーん……伏黒、あの人と知り合いみたいだけど五条先生の伝手?」
「嗚呼、俺がガキの頃、俺と姉貴の書類周りのことを五条先生の代わりにやってくれてたんだ」
「なるほどね、警察関係者なら詳しそう」

謎が解けたと、納得したように虎杖が頷いた。
荊との付き合いは、五条が伏黒の前にあらわれた後すぐからだ。最初のうちは荊のあの食えない笑顔が苦手だったし、正直今も少し苦手だ。しかし昔から姉と共に様々なことで世話になっており、恩人の一人であることは変わらないし、常識人なので良き相談相手にもなってくれ、会えたら嬉しいと純粋に思う相手だ。こんなことで死んでほしくないと思う程に、大切だ。
虎杖がもう見えなくなった荊が消えた方向を見て、心配そうな声を出す。

「本当に一人で大丈夫なのかな?」
「……分からない。でも仕事の話を持ち出されたら引くしかないな…俺らはただの学生で、荊さんは若く見えるけど警察ではかなり偉い人らしいし」
「え!?全然見えないわ…警察っていうのにもちょっと不思議に感じるのに。あれで凶悪犯罪者とか捕まえられるのかしら」

傍で話を聞いていた釘崎が意外そうな声を漏らす。確かに荊は年齢不詳で若く見えるせいか、貫禄はあまり感じない。おまけに狗巻の家系故かやや幼い顔立ちで、あれで犯罪者を詰問できるのか、未だに伏黒もその点は疑問に思っている。体格に恵まれているというわけでもないので、頭の良さだけで上にのぼっていっているのだろう。
パンパンと手の打つ音がした。その音に振り返れば、五条が伏黒達を手招きする。空気を変えるために五条が手を鳴らしたようだ。

「ほらほら無駄話は終わり。行くよー」
「はい」

荊の心配ばかりしていても何も進まない。伏黒は与えられた任務に集中しようと、気持ちを切り替えた。






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