過去







おにぎりにまかれていた包装紙のゴミを差し出すと荊はそれを受け取りコンビニのビニール袋にいれ街中のゴミ箱に袋ごと捨てた。
おにぎりを食べ終えたら、仕事だ。

禪院甚爾は頭を掻いて前を歩く荊の後ろ姿を見る。当てもなく街中をぶらぶらと仲良く歩くような、そんな関係ではない。雇用関係以外のなにものでもない二人は、本来はビルの隙間の寂れた公園で待ち合わせをしていた。しかし今日甚爾が近道しようとしたせいでちょっとしたトラブルに巻き込まれ、場所を移すことになってしまった。

「どこ行くんだよ」
「今日のお仕事の場所」
「は?」

荊が立ち止まる素ぶりはなくどこかを目指しているのは明らかだったが、まさか今日の今日仕事をするとは思わなかった。荊の仕事はいつも急だが日時指定のお膳立てされたものが大半だ。訝しむと荊が振り返った。

「とーじくんが今日することは殺しじゃなくて俺の同行、護衛かな?」
「同行?護衛?」

荊自身が現場へ赴く。今まで一度もそんなことがなかったのに珍しいこともあるものだ。おまけに甚爾の仕事が殺しじゃないとは。ポンポン人を殺させといて、今更与えられた仕事が護衛。久しぶりに感じる荊の怪しさに、甚爾は目を細めて探る。

「何させる気だよ」
「向こうが何もしてこなければ一緒に来るだけだよ」
「チッ、まどろっこしいな」
「場所は直ぐ近くだから安心して。身の安全については安心しない方がいいかもだけど」
「ああ?」

益々物騒だ。先程からのはぐらかすような口ぶりといい面白くない。甚爾が顔を顰めても荊は臆することなく飄々としていた。
そう時間はかからず、荊が足を止めた。

「とーちゃく」
「墓地じゃねーか」
「墓地だねぇ」

先程からずっと左手に見えていた墓地だ。墓地の外周を移動して、正面入り口へと回ったらしい。時刻は日も落ちようかという頃で、この時間にわざわざ墓地を訪れる物好きはおらず、人気がない。都内にある墓地としては広く、入り口から再奥は見渡せなかった。しかし此処に用事があったとて、わざわざ正門へ回らずとも、そう高くないはない塀を越えれば良いだけだが。

「とーじくん」

名を呼ばれて墓地から荊へ顔を向ける。荊が懐から何かを取り出した。紙で作られた鳥、旧式は陰陽術、現代では呪術の一つ。荊はそれを空に放った。紙は直ぐに具現化し翼を広げ、何処かへ飛んでいった。それが、任務の始まりであることは明らかだ。

「絶対に、俺と同じところを歩いて」

その言葉に、正面入り口へと回った意味を理解した。無関係の人間が立ち入らないように場所ごと封印がされているのだろう。

「右に三つ、そのまま直進、左に三、そのまま直進」

並ぶ墓石の数を確認しながら進む荊の直ぐ後を続く。マス目式のゲームのようだ。辿り着いたのは、墓地の片隅にある、墓とも言えないようなみすぼらしい墓だった。樹齢の長そうな幹が太く背の高い枝垂れ桜に、その根元にある僅かに盛り上がった土と、目印のように一つ置かれた大きな石。石は墓石代わりだろう。
桜の木の根元に死体が埋まっていると書いたのは誰だったが。

胸糞悪いと、甚爾は舌打ちをした。
何をすべきか予め把握しているのか荊が桜に触れようとして、それまで静かだった墓地に急に立っていられないほどの風が吹き込んできた。風に嫌な臭いが混ざっていて、自然の力ではないことを直感した。強風に荊の体がぐらりと揺れて。
そして桜の木ではなく、足元の石に手が触れた。

「え」
「おい!!!」

とぷんと、池に落ちるように、荊が石の中に吸い込まれる。石は固形物なので中に落ちていくなどあり得ないが、まるで底なし沼のように荊を飲み込む。咄嗟に荊の片腕を掴むと、そのまま甚爾も石の中へと一緒に落ちていった。






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