現代










ツナマヨか高菜かと言われて、五条はツナマヨをもらった。コンビニはもっぱらスイーツばかりチェックしているのでおにぎりは久しぶりに食べる。包装紙をやぶり、あぐりとかぶりつく。記憶の中のコンビニおにぎりの味より美味しくなっている気もする。食べておいて何だが、いつも感じる疑問を口にした。

「おにぎりより甘いものの方が頭回らない?」
「甘いものは頭回る前に眠くなるんだよね」
「それは荊さんが万年寝不足だから………やっぱりパリパリの海苔の方が好きだな」
「パリパリにもパリパリの良さがあり、しっとりにもしっとりの良さがある」
「その心は?」
「おにぎり美味しいね」
「うん」

それに関して異論はない。五条はふにゃふにゃした海苔に物足りなさを感じながら、隣にいる荊をちらりと見下ろす。
大人数で取り組んだ呪物の回収の件は無事完了し、荊も家入の手当てを受けて全快していた。ムカつく上層部への報告も終わっている。報告には五条も半ば無理矢理同行したが、結果として付いていってよかった。上層部はニヤニヤしながら荊を詰問し揚げ足を取り、あまつさえ処罰しようとしたのだから。当然五条は不当だとして、それをなかったことにさせたが。それをしなかったら、荊がどうなっていたか。

「ねー荊さん。お願いがあるんだけど」
「何かな?」
「荊さんは才能があるやつが好きなんでしょ?」
「そうだね」

荊は非呪術師の道を選んだが呪術師のために力を尽くしてくれる人だ。自身の事は後回し、睡眠や食事の時間など削れるところを全て削って、人と気兼ねなく話すのはこうしておにぎりを食べている間だけ。そんな呪術師に献身的な人間を、みすみす死なせてしまうのは惜しい。

「俺に、ついてくれない?」

五条は、上層部も、家のしがらみも、どちらも無くしてしまいたいと考えている。呪術師を守ろうとする荊が目指す未来と、そう違わないはずだ。だからこそ、明確な言質が欲しい。

「才能のあるやつ、じゃなくて、五条悟についてほしい」
「……才能がある側につくのはひいては悟くん側ってことだよ」
「いや違うね。才能があるもの同士が対立したとき、荊さんは『どっちにもつかない』よ。そうでしょう?」

今の荊は、不確定要素だ。
五条がさしているのは、かつて、五条を殺した男のこと。荊に明確に確かめたわけではないが、その男と荊の間に雇用関係があったことは調べがついている。あの顔を思い出すだけで胃がムカムカするが、それと荊は関係ない。問題なのは、荊があちらを取ったわけではなく、ただし五条もとらなかったこと。どちらにも才能かあるから。
あの男と荊の関係を知っていることをチラつかせたのは初めてのことなのに、荊は狼狽えることもなく表情を変えなかった。五条が調べていたことは分かりきっているようだ。

「絶対に裏切らないように俺について。俺の目指す先に、荊さんの力が必要だ」
「ちから、かぁ」

荊は、始終穏やかで表情を変えない。ポーカーフェイスで笑顔を被って腹を探らせないようにしている。職業柄、境遇柄、どちらがそうさせるのだろうか。今も、荊は笑っていた。

「あはは、悪いね」

呪言師の家系に生まれたのに、呪印を持てず。それでも絶望することも目を逸らすこともせず、むしろ持てるものを守るために多くを切り捨て、そして自分すらも切り捨てる覚悟のある男。荊はおにぎりの最後の一口を口に入れた。

「俺は最初から何も持ってないからさ、俺は、なにものにもなれないんだ」

全てを持ち得ている五条には、荊の気持ちは一ミリも分からない。荊とて、自分の気持ちを知って欲しいなど、一ミリも思っていない。それ故に五条と荊は絶対に相容れない関係だと、今明確に知ら示された。
荊がゴミをコンビニの袋に入れる。

「悟くんの目指す先で俺が邪魔になったら殺しにおいで。才能のある子に殺されるなら、本望」
「荊さん」

五条が呼び止めても、荊は歩みを止めない。この人は初めから、一人で茨の道を歩いて行くと決めているから。

「じゃあね、悟くん」

おにぎりを食べ終えたら会話は終了の合図。

荊は再び、仕事に戻っていった。






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