暗い、目を開けても閉じても何も見えない。静かだ、音がしない、聞こえないのかもしれない。寒くない、寒い、身体が震えている気もする。もう分からない、何も考えたくない、生きたくない、死にたい。

「わー外見は立派な家だけど、これは悪趣味だなぁ」
「…………」
「また会ったね」

一筋さした光から長身の影が伸びた。眩しくて反射的に目を閉ざして、うっすらと開ける。仁王立ちしていた男が横たわる梛の目の前に足を持て余しながらしゃがんだ。梛はそれをぼんやりと見上げた。負の感情に浸りすぎて頭が働いていない。
世話になっている家に戻れば、規定の時間に戻らなかった梛を叱責し、蔵で折檻された。最後は起き上がれなくなった梛に水をかけて蔵を閉じた。灯りもなく、薄着のまま放置されても、悲しくもなく、ぐるぐると頭の中を回るのは死に関することばかりで、涙ひとつでなかった。泣いたところでどうにもならないことはとうの昔に刷り込まされたから。このまま死んでしまいたい、そう思っていたのに。

「禪院梛」
「………」
「キミ、禪院家から出来損ないのレッテルを張られて遠ざけられたんでしょ?」
「………」
「なんか言わないの?」
「………」
「まぁ呪術界なんてどこも血が血がってうるさいけどさ」

男がその目隠しをするりと首元へと下ろした。頭が働かない梛でもぞくりと恐怖を感じた、何もかもを見透かす瞳。六眼の青い瞳は綺麗なのだろうけれど、梛には恐ろしいものにしか見えなかった。梛の汚い部分も全て見られているようで、その瞳を汚したくない、視界に入れないで欲しい。
身動ぐことすらできない梛を、最強の男、五条悟は自身の膝の上で頬杖をついて見下ろす。

「キミの術式は僕の眼ではもう視えてるし、キミがその術式をつかないこなせないせいで禪院から遠ざけられたのも知っている」

ギクリと肩が震えた。まさかこの短時間でそこま調べるとは思わなかった。偶々居合わせただけなのに。梛が怯えた表情を浮かべると五条悟は満面の笑みを浮かべた。

「東京呪術高専においで。キミのその力、必ず使えるようにしてあげるから」

そんなこと望んでいない。こんな術式いらなかったのに、産まれ持ってしまったし、それなのに今までろくに使いこなせず。何度も何度も役立たずだと言われ続けて。今更、こんな術式、使えるようになんてなりたくない。梛はひどく動揺し、五条悟はその動揺を分かっているくせににやにやと笑うばかりで。

「あ、悠仁のことなら安心して。秘匿死刑は保留にさせたから」
「……」
「まぁ今まで通りとはいかないから、東京高専に入学させることになるけど」

先ほどの両面宿儺の受肉から然程時間が経っていないのにもう査問会は終わったらしい。両面宿儺の顕現に呪術界上層部が納得したとは到底思えないが、それをやってのけるのが最強の呪術師、五条悟か。まさか梛の事だけでなく虎杖悠二のことまでも丸めこんでしまうとは。

「不安材料はそれぐらいでしょ?だからおいで、高専に」

不安材料、そう言われてこの男は心まで見透かせるのかとさらに恐怖を感じた。虎杖悠二のことは確かに気がかりだった。仲が良いとは思っていない、ずっと向こうが一方的に話していて、信じられないぐらいに根明だし、お人好しでお節介なのに、梛の意思は全然読み取ってくれない。でも、この田舎に来て、いや生涯においても唯一梛の隣にてくれたのは、虎杖悠二だけだ。両面宿儺に呑まれてしまっていたのであれば此処まで考えなかったかもしれないが、最後に見たあいつは、いつもの虎杖悠二だった。だから、良い奴だからこそ、生きて欲しかった。死んだ方がいいのは梛だ。秘匿死刑を代われるものならば、代わりたかった。

梛が唇を噛むと、五条悟は勝ち誇ったようににんまりと笑った。

「まぁ、キミに拒否権ないんだけどね」







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