探す必要もなく、派手に校舎の一部から轟音がした。梛はそこへ窓から躊躇なく飛び込んだ。呪霊を目にして片手に持っていた竹刀袋から愛刀を抜く。呪霊が梛を認識してその場から飛び退いた。梛は廊下へと着地して素早く状況を確認する。

「梛!?」

虎杖悠仁。さっきのメールから病院にいたはずでは。何故此処にと思ったが、今はそれはどうでもいい。虎杖悠仁の他に知らない人間がひとり、そして二級相当の呪霊が二体。片方は四つ腕、もう片方は羽根が生えている。あとは学校にあった呪物の気配。呪物は完全に封印が解けている。これに引き寄せられて呪霊が来たのだろう。これ以上呪霊が増える前に叩いたほうがいい。見知らぬ人間はその呪力から呪術師で間違いないが、何級なのか分からない。分からないが、迷っている暇もない。一体ずつ手分けするのが得策だがどうするか。向こうも梛が呪術師であると察したようで、梛の意図を察して頷いた。黒い制服。もしかして高専か。呪術師が組んだ印に梛は目を剥く。

「その呪法、まさか、お前……!」

話に聞いた限りだが、影から式神を生み出す相伝の術式。まさかこんなところで出会うと思わず梛は絶句した。少なくともこんな田舎に飛ばされた梛には縁のない相手だと思っていたのに。

「来るぞ!」

虎杖悠仁のその声にはっと意識が現実に戻る。少なくとも呪術師は噂通りであればある程度戦えるはずだ、何より貴重な相伝だ、こんなところでむざむざ死なせはしないだろう。呪術師は放っておいても大丈夫だと判断して、あとは虎杖悠仁だが。ちらりと虎杖悠仁を見て、外傷がないことを確認する。何故だが一般人であるはずの虎杖悠仁は身体が頑丈で運動神経もいい。いつの間に呪霊が視えるようになったのか知らないが逃げるだけであれば可能だろうと直ぐに判断する。

「俺はアレをやる!お前はそっち!虎杖悠仁は逃げろ!」
「あ、おい!」

同じ場所で戦って乱戦になると相手のことをよく知らない梛達は連携が取れずに不利になる可能性がある。特に梛は、他人と組むといろいろ考えてしまい動きが鈍るので一人の方が性に合っており、この場を離脱することにした。羽根の生えた呪霊を呪力を使って壊れた窓から外に押し出す。どうやらまだ羽根では飛べないようで、羽ばたこうとするもののそのまま地面に落下した。飛ばれたら厄介だったのでラッキーだったが。

「くそくそくそ!何で十種がいるんだよ!あいつのせいで!あいつのせいで、違う、俺が……出来損ないだから……」

忌々しい相伝の術式、十種影法術。あいつがあれを持っていなければ、梛はこんなことにはならなかったかもしれないのに。いやそれは無い、と直ぐに自分の気持ちを否定する。十種があったところで、なかったところで、梛には何も関係ない。梛が梛である限り、おもちゃとして遊ばれるだけだ。粘着く声が耳元で聞こえた気がして、ぞわりと怖気が走った。

「今は、集中」

首を横に振って、幻聴を払う。あの人は此処にはいない、目の前にいるのは確実に祓えるレベルの呪霊だ。一つずつ問題をこなしていくしか梛には出来ないのだから、目の前のことに集中すべきだ。
愛刀を鞘に納めたまま、呪霊の様子を伺う。向こうも此方を警戒するようにその場で身を屈めた。相手の様子を探る動きからそこそこ知能があるようだ。こんなレベルの呪霊が近辺に居たことに内心驚く。人が少ない田舎だからこそ気がつかれなかったのだろう。
呪霊が動いた。バサバサと動く羽根は、飛ぶために生やしたのではなく、加速するために生やしたようで、その動きは一般人には瞬きの間と感じたかもしない。しかし、梛の瞳にはそれがひどく鈍い動きにしか見えなかった。

「ーーーあの人より、遅いな」

刀を抜く必要もない。愛刀を鞘に納めたまま、梛は呪霊を横に切った。込められた呪力は鞘を刃とし、呪霊は真っ二つ、そのまま消滅する。都会と田舎では等級が同じでも動きが違う、田舎の呪霊は所詮この程度だ。






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