誰か今すぐに刺してくれ。此処から抹消してくれ。そう強く願わずにいられなかった。

「オカ研って何やるんだろーな」
「…………」
「オカルトって何?UFOとか?ネッシーとか?」
「…………」

何がどうなったのかさっぱり分からない。いつの間にか虎杖悠仁と一緒に帰ることになってしまった。どこでどう間違えてしまったのだろうか。梛は一人でそそくさと帰るはずだったのに。ひっそり生きるスクールライフはどこに行ってしまったのか。根明と前後の席になってしまたったために、こんなことになってしまった。絶対に担任を許してはいけない。内臓脂肪が増えるように呪っておいた。

「幽霊とか?俺そういうの全然見えたことねーんだけど。梛は?」
「…………」
「身近にいるって言うけどマジかな?」
「…………」

視えない奴はこんなに気楽なのか。いやこの根明ならば視えていても気楽に違いない。梛は目の端にうつった黒い影を視なかったことにして黙々と足を動かす。田舎であろうと呪霊がいなくなることはない。人間がいる限り呪霊は生まれ続ける。そんなもの目に入ったからといっていちいち祓っていては身体がもたないし、自分からトラブルに飛ぶこむことなんてもってのほかだ。死にたいけれど、梛が望んでいるのはそういうことではない。もっと穏便な、出来れば縁側で日向ぼっこしながらの突然死。しかし残念ながら梛はメンタルとは裏腹に身体が健康すぎて、そういった兆候を一切感じない。おかしい、こっちは死を迎え入れる準備万全なのに。

「先輩二人とも優しそうだったよなー」
「…………」
「俺家族が爺ちゃんしか居ねぇんだけど、その爺ちゃんが入院しててさ」
「…………」
「だからはやく帰れる部活が良かったからオカ研は都合が良かったんだけどさ、一人は心細いなーって思ってたから」
「…………」
「梛がいてくれたら安心って感じ。なんだろーな、このしっくりくる感じ!」
「…………」

気が付いて欲しい、梛は根明の存在にぜんぜん全くしっくりきていないことに。しかし根明には悲しくなるほど梛の気持ちが通じていなかった。梛の伝える努力が足りていないのは確かだが、梛に根明へ声をかけるのはハードルが高すぎた。
根明に引き摺られるように連行されて先生にオカ研の入部届けを出した。始終横にいるので出すしかなかった。部室に挨拶に行って、先輩がいたらしいが正直顔もあまり覚えていない。オカ研なんてものに所属しているということは先輩達は視えない人種なのだろうが。見えないものへの浪漫を感じるのは結構だが、無用なトラブルを引き起こしませんようにと切に願った。

「うちこっちだから!じゃあまた明日なー!」

千切れんばかりに根明が手をブンブンと振って去っていった。梛はそれを棒立ちで見送った。嵐のような男だった。漸く静かになったと梛は溜息を吐いて、はっと気が付いた。

「………もしかして明日からずっとあれと一緒…?」

此処まで梛は一言も発していないので、ずっと根明が一方的に話していた。あれが毎日続くと思うと。
梛は腹部を抑えながらよろよろと世話になっている家へと向かう。とりあえず、胃薬が飲みたい。





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