学校では恵は基本的に一人だ。問題ばかり起こす恵に好き好んで話しかけてくるやつはいない。授業と授業の間の休憩時間、自席に座ってぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。視線の先は前方の席に座っている、榧だ。

「ねー、榧くーん」
「うん。ん?あ!前髪切った?」
「わかるー!?」
「気付くの遅くなっちゃったけどね、今日なんか違うなーってずっと思ってたもん」
「榧くんー!」
「流石だわマジで。マメ。俺なんて言われてなお昨日と違いが分かんねーよ」
「榧くん見習えよ、お前ら」
「お前のダメなところはその態度だよ、お前こそ榧を見習え」

榧の周りにはいつも人がいる。今も、榧の席を囲むように男女が群がっていた。榧の目の前の席に座る女子が前髪を指摘されて嬉しそうにしている。榧は、人気者でクラスの中心だ。仲が良かろうが悪かろうが、分け隔てなく優しくて気さくで、明るくて、教師からの覚えも良い優等生ーーーということにしているのだろう。

「榧くん、お昼一緒に食べない?」
「ごめんね。今日も用事があって」
「えー…榧くんってホント、お昼も放課後も全然遊んでくれないなぁ」
「本当にごめんね」

榧を取り囲むうちの一人が恵の視線に気が付いて、そして榧に耳打ちした。榧は耳打ちされた何かに笑って、手を横に振っている。
教師が入ってきて、榧の周りにいた連中がそれぞれの席に戻っていった。

「……」

ふと榧が振り返り、恵と視線が交わる。ほんの一秒足らずのことだ。榧は直ぐに前を向いてしまって、周囲も目があったとは思っていないだろう。しかし、榧は、明確に恵を見た。





授業を終えて廊下に出ると、移動教室なのか偶々津美紀と遭遇した。津美紀が話しかけてこない限り恵から話かけに行くことはないのだが、会いに行く手間が省けた。恵が近寄ると、津美紀が驚いた顔をした。

「恵?珍しいね」
「今日、榧んとこ飯食い行くから、津美紀も。あいつの妹が会いたがってる」
「本当!?榧くん妹いるんだ!嬉しい!じゃあうちからもカレー持って行こう!昨日いっぱい作ったしさ」
「そうだな、一回帰ってから行くか」

手短に用件を伝え、その場を離れる。榧に許可を取っていないが、津美紀がいれば押し切れるだろう。榧の外面も使いようだ。





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