呪い。そんなもの現代において口にしようものなら、頭が正常なのかを疑われるのが普通だ。伏黒恵も目に視えなければ信じなかっただろう。しかし残念なことに、恵は其方側の人間で、視えてしまっていた。見て見ぬ振りをするには恵は才能を持ちすぎていて。姉の津美紀を守るためとはいえ、将来にレールを引かれるのは面白くなかった。

呪術高専に入学して、呪術師になる。現在中学二年生になる恵に、その未来が近づいて来ており、日に日に心は荒んでいった。言葉に形容できない憤りがぐつぐつと腹の中で煮え立つ。
その憤りを発散するかのように、イジメやカツアゲといった道理の通らない行為をする奴を片っ端から黙らせていった。感謝されたいわけではない、半ば八つ当たりであることは自身も自覚していた。
問題行動を起こす恵はクラスから浮いており、学校に自分の居場所を見付けられず、今日もまた一人で校内を歩いていた。目指すのは校内の端にある飼育小屋だ。以前は小動物を飼育していたらしいが、現在は何も飼育されておらず、ただ小屋だけが残されており、あとは何もないため人がくることは殆どない。そこで恵は寝たり本を読んだり、と時間潰しをしていた。

昼の時間を潰そうと飼育小屋に来ると、人の気配を感じた。誰かいる。稀に此処を逢い引きに使っている奴がいるのを知っていたので今回もソレかとげんなりした。引き返そうかと思ったところで、地面に手が転がっているのが見えて足を止めた。人間が倒れている。恵は気配を消して、そっと其方へ近付いた。小屋の影から覗けば、地面には三人の男が倒れていた。どの男も体格に恵まれており、そしてどの男も血塗れだった。

「しけてんなー…喧嘩売るならちゃんと金持ってこいよ。俺の時間使ってんだから」

倒れた男達の間に一人の男がいた。怪我どころか、服に汚れ一つ付けていない。そして慣れた手つきで、財布から金を抜き取っていた。手早く三人分の金をしっかりと手に入れて、男はその場から去っていく。恵には気が付かなかったようだ。

「あいつ………」

華奢な身体と、女の様な顔立ち。他人に興味がない恵でも見覚えのある男だった。クラスメイトの、確か榧という男だ。模範的な優等生で、恵はよく教師に「クラスメイトの榧を見習え」と言われるので名を覚えた。品行方正なのにか弱く庇護欲を誘う、とクラスメイトが囁きあっているのを聞いたことがある。しかし、その話とは裏腹に、言葉遣いも粗雑で随分と手慣れた様子だった。
猫を被って裏ではカツアゲを働いている可能性もあるが、わざわざ優等生の皮を捨てて体格の良い男達に手を出すような、目先の欲を取るような性質にも感じなかった。か弱い雰囲気にいけると思った男達が榧を呼び出し、逆にやり返されと考えるのがしっくりくる気がする。

「…………」

どちらにしよ、恵には関係ない事だ。わざわざ教師に言いつける気にもなれずに、別の場所で暇を潰そうと恵は踵を返してその場から離れた。






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