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玉犬にかかれば、榧を見つけることは容易い。見つかってよかったという安堵と、この場所にいることに腹が立って、心の中が忙しかった。ホテル街のネオンの影から、恵は威嚇するように低い声を出す。

「おい、その手を離せ」
「っ」

汚い大人の手で、触れていいものじゃない。榧の腰に回っていた手を離して男が恵を振り返る。目付きの悪さを生かして睨みつければ、男はたじろぐ。草臥れたスーツに、そう近くはない距離の恵にまで酒臭さが匂ってくる。不快さに眉間に皺を寄せてより凄みをますと、男は一歩下がった。

「なんだ君は!」
「俺が誰かより、未成年のそいつ買うと、マズイのはあんただぞ」
「み、未成年!?」

男は驚いた顔をして傍の榧を見下ろす。どう見たって榧は未成年だ、分かっていて買おうとしたのは明らかで、大人の汚い一面に嫌気がさした。男は何か弁明を口籠りながらも走り去って行った。残された榧は逃げることなく恵を淀んだ目で見つめ返す。

「……恵」
「何でこんなことする」

余計な事をするなと目が語っているが、恵は見過ごせなかった。こんなことを容認するために隣にいるわけではない。一緒の布団で眠ったわけではない。
恵が問いかけると、榧は覇気のない声をもらした。

「……金が、無いからだよ。あいつが、母さんが残した通帳を持って行きやがった。唯一、自由にできる金で、妹達のために使える金だったのに」
「……」
「金が無いと、児童相談所が、保護が来る。俺ら、バラバラにされる」

あいつ、が父親なのは聞かずともわかる。榧を犯しあまつさえ子供の金まで持って行くなんて、恵の顔も知らない親の方がまだマシかもしれない。頭に血が上らないように気を付けたが、声音は唸るようだった。

「だからって、お前が身体売るっていうのかよ」
「じゃあ!どうやって金を作るんだよ!俺はまだバイトもできねーんだよ!」

どんなに守ろうとしても未成年で金は作れない。恵が、自分の将来を売って津美紀を守ろうとしたのと同じく、榧も自分を売って妹と弟を守ろうとしていた。同じ穴の狢の恵が、それを間違っていると、恵の感情だけで否定するなんて出来ない。お前だってそうだろうと言われたら。
それでも、榧が自分を安売りするのが、どうしても許せない。

「身体使うからって、何がいけないのさ。どうせ、もう何度もあいつに……売りだって今回がはじめてじゃない」

榧が地面へと顔を伏せた。雑踏が遠く、榧の声だけが恵の元へ届く。

「もう汚れてるんだから、今更どうなったって、いいだろ」

世界に二人だけであればよかったのに。
ネオンの煌めきの中にいるのは榧と恵だけだ。榧の肩に乗る全て下ろしてやって、その手を引いて何処へでも連れて行きたい。それなのに、恵もまだ子供で、連れて逃げるどころか、榧の荷物を持ってやることもできなかった。己の無力さに、胸が抉られた。
榧が泣きそうな声で、恵を突き放す。 

「恵、俺を好きになんてなったらダメだよ。俺汚いし、お前に、お前の両親が願ったようには、何も与えてやれない。俺を好きだとか、気の迷いだから、そんな気持ちさっさと捨てろよ。もう、放っておいてくれよ………」
「ーーーー!!!」
「ッ!」

榧を泣かせたくない、そう思うのに、榧の言葉にガツンと頭を殴られたような衝撃だった。頭を沸騰させないようにしていたのに、榧が火をくべるから。感情を自分で自分を制御できない。榧の腕を掴んで歩き出す。

「恵!?」

榧は嫌がって恵の手を引き離そうとするが恵は込める力を緩めなかった。それどころか力が入ってしまい、恐らく腕を鬱血させているだろう。榧の体に痣を増やしまう。

「ちょっ……!」

何か言っているが、何も言葉として聞こえてこない。グイグイと引っ張って榧の家へと戻った。




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